二話 失った息子と残された子供

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二話 失った息子と残された子供

少し、子猫連れの野犬で気持ちは紛れていたが、家に帰って寂しさや辛さは一気に込み上げた ペットの火葬が出来る場所に連絡を入れ、 明日…持っていく事を伝えては、猫達がいる部屋にソールの入った箱を置けば、彼女達は様子を見に来て、毛並みを舐めていた 「 お別れしてて下さいね。その間に砂を綺麗にしますので 」 猫の為に買った一軒家 色んな場所にキャットタワーやキャットウォーキングをセットし、上側の壁に穴を開けて通り道だってある 全ての部屋を二重ロックであり二重扉に改造してるから、窓に激突しても出る事は出来ない 換気扇やエアコンだけがフル活動してるが、それ等も扉を開ける必要を無くしてるから…   ここにいる猫達は皆、違う場所から引き取ったり、拾ったり、飼えないからと渡された子だ 一番若くても五年以上は経過してる程に、その子を最後に拾うのを止めていた 自動で猫の砂が回転するトイレだとしても、下は綺麗にし、流れる浄水器を其々に水をやり換え、スーツを衣紋掛に掛け猫の毛が付かない場所に掛けてはカッターシャツの袖を捲り上げ、猫達の餌の準備をする ゙ ミヤァー ゙ 「 テラ、少し待ってて下さいね 」     キッチンのカウンターへと上がってきた、ブルーの毛並みを持つノルウェージャンフォレストキャットのテラが、いつものように餌をくれと催促すれば、軽く首の飾り毛を撫でていれば、足元へと擦り寄る感覚に視線を落とす ゙ ンナァッ… ゙ 猫なのに低く、そして短く鳴くのは ラグドールのミックスであるマシュマロ 真っ白な身体をしてる子で、飼い主が飼えなくなった事で引き取った子だ 甘えん坊であり、おっとりとしてるが結構なご年齢なんですよね  「 マシュマロも、少し待ってて下さいね 」 十五歳を迎えるマシュマロに笑みを向けては、十一個の皿を出してトレー用へと並べて、其々体重、年齢に合ったようにgで計ったのを入れ、必要な子にはサプリメントの粉もふりかけたり、他の子にはかつお節なども振る 全員分が出来た頃には、八匹の猫にガン見され、トレーを持ちあの部屋へと行く いつもの場所にある、スタンドの上に置いて並べていけば、ちゃんと自分の皿で食べる猫達を見て、ソールの元へと戻り、近くに別の皿を置く 「 ソール……っ…… 」 社長が愛犬を失った時、酷く共感をした 私はこの子達が全てでは無く、これ迄にも沢山の子を飼って来た 病気で亡くした子も居れば、幼い子猫の命を助けれなかった時、寿命で亡くなった先住猫もいたからこそ、彼の気持ちには痛い程胸を締め付けられた だからまた、きっと新しい犬を飼えば、 前の子の代わりにはなれなくとも、少しは心の傷が癒えるのでは無いかと思ったんだ 案の定、ずっと落ち込んでいた社長はボリスと出会ってから明るくなった それを見て、私もソールとお別れをしても立ち直れるようにしようと思ったのですよ 「 ソール、私には皆がついてます…。大丈夫ですよ、きっと… 」 ソールの代わりになる子や、似てる性格の子はいない 十二匹居ても、一匹たりとも同じ子はいないのだから、これからもこの先もソールだけでしょう 「 っ………ソール……天命を全うさせて上げれなくて…すみません… 」 けれど、如何しても我慢していた涙は溢れ落ちた ブリーダーが言ってた年齢よりずっと生きていたが、この子が元気ならもっと…もっと長生きさせて差し上げたかった 其れが出来なかったことが悔しくて仕方ない  どんなに金があって、病院に行けたとしても、 仕事で看取ることも、家で手厚く看病する事も出来ないんだ 残りの時間、全てを病院で任せてしまった事が唯一の心残り 「 悔やんでも仕方ないと分かってます…分かっているのですが……。君と過ごした時間を思い返すと…我慢なんて出来ません 」 ゙ ミヤァー… ゙ ゙ ンニァオッ ゙ 「 っ…慰めてくださり…ありがとうございます… 」 頬を舐める猫達に、そっと触れて抱き締めては、今日はそこで眠りに付いた 朝早く風呂に入り、猫達の世話を終えれば、服を着替え私服となってから、ソールを連れて行く 行きにあの公園を通り掛かったけれど、後から見に行こうと思い、其の場を確認する事なく離れた ソールとの御別れは辛いが、ずっと家に置いてあげる事も出来ない  目の前で箱に入って焼かれ、其の中に入っていた残りの骨だけを小さな小瓶へと入れ、御礼を伝えてから車に戻る 何かが抜け落ちたように泣く事は無く、帰り際にあの公園へと脚を向けた 「 流石に、いませんね 」 空の容器を見かけ、それだけ拾ってから辺りから子猫の鳴き声がしないことに、諦めて家へと戻る   直ぐにその食器を漂白剤にかけ、洗浄し浸けては、今まで亡くなった子達と同じ場所に小瓶を置き、ソールの写真立てを並べ、両手を合わせる 「 向こうで…他の子と仲良くしてくださいね。ソール… 」 心臓の病気だったのによく頑張ってくれた そう、何度も思っては全てを投げ出すようにソファーへと倒れ込む 「 社長が、萎えるのも分かりますね…。はぁー… 」 ズシッと背中に感じる二つの重み  何食わぬ顔で背中に乗ってくる猫達に、相変わらずだと苦笑いが漏れるも、落ち込んでる暇はない 「 さて、ブラッシングしていきますよ。並んで 」 ゙ ミャァー! ゙ ゙ ンニァー ゙ 目に付いた猫の用のブラシを持てば、ブラッシングが好きな子が並ぶようにやって来る その子達を見て起き上がり、ブラッシングをする   飼い過ぎ、だと言われる事もある けれどこうして…休みの日はずっと一緒に遊ぶのだから私にとっては娘や息子達と暮らしてるみたいなもの… 「 一匹でも失うと…悲しんです… 」 アビシニアンのパトラを抱き上げて、そっと抱き締めればその毛の香りを堪能し、気持ちを落ち着かせた けれど、皿を゙十二枚゙用意してしまう癖は直ぐには無くならなかった 「 猫澤(ねこざわ)くん、どうした?元気無いように見えるが… 」 「 いえ、なんでもありませんよ 」 「 そうかい?けれど、余り無理しないように… 」 「 はい、お気遣いありがとうございます 」 其れと同時に、あの日の夜に見た子連れの野犬も見る事は無かった 私が隠れ家まで行ったせいなのか、それとも移動してる最中だったのか分からないけれど、大きな野犬が彷徨いてる噂も流れてはない ボリス君の時は、結構有名でしたのに… あの野犬は、潜れるのが上手いのでしょうね そう思うしか、出来ない   社長に心配されないよう、仕事場ではいつものように過し、家では酒を飲みながら猫達と戯れる時間を増やしていた あっという間に日付は過ぎていき ソールが亡くなってから、三週間は経過した頃だ 今日は土曜日の休日で、 猫達の餌とおやつ、ついでにおもちゃや自分の食料でも買いに、出掛けていた帰り道 車で走行していれば、あの公園の中央で高校生ぐらいの三人組が、部活で使うのか分からないようなバッドで何かを殴ってるのを見て車の速度を遅くした 「 なっ…… 」 目を疑った この街で、虐待してる子がいるなんて思わなかったからだ 即車を脇に止め、公園の方へと行き声を掛ける  「 君達!何をしてるんだ! 」 「 やばっ…… 」 「 行こうぜ!! 」  大人が来た事で焦った少年達は、荷物だけ取って其の場を走って逃げていく けれど、彼等がいたところには倒れている大きな野犬がいた 口から血を流し、身体のあちこちも傷だらけで地面には血が飛び散ってるのを見ると、どれだけ酷く殴られたのか分かる 「 貴方…逃げれるでしょ…何故……っ!! 」 何故逃げなかったのか… その、答えは野犬の身体の下にあった小さな黒い影に気付く   あの子猫はこの三週間は生きていたんだ  けれど、子猫は動く様子は無く、野犬も呼吸をしてるのか怪しいほど  「 …助けようとして、逃げなかったのですか… 」 「 グルルッ…! 」 子猫に触れようとした瞬間、野犬は目を開き腕に向け噛み付きて来た 「 っ……! 」 威嚇でも、警告でもなく、本気の殺意がある程に噛み付く野犬に、私服で秋物のコートを着ていたとしても、分厚いコートには穴が空く けれど、其れと同時に茶色いコートは赤く染まるのを見て、この野犬の口から垂れてる血なんだと思うと痛みなんて二の次になる 「 私を…、虐待した子達と間違えないでくれませんか?痛いんですけど… 」 「 グルルルル… 」    低く唸り更に咬む圧迫感が強くなれば、今度は自身の手首から鈍い痛みと、生温い感覚が広がり、 僅かに下げてる事で手首から指先に向け血が垂れ流れていく   ポタリと落ちる鮮血に眉を寄せれば、この野犬との睨み合いが続く 「 その子猫、もう…死んでるでしょう。守ったところで、助かりませんよ 」 酷い言い方だろうと分かっている 大切にしてたのも知ってる、だからこそ伝えれば野犬の目は見開き、歯茎を剥き出し怒りを向ける 「 いっ、っ……私に、八つ当たりしないでくれますか!? 」 「 グゥッ!! 」 暴力反対だと言われるでしょう けれどこれ以上は私の腕が、縫う必要になってしまう   それだけは、御免だ 反対の手を握り締め、野犬の首元に向け、一発殴れば、口を離した隙に子猫を拾い上げ、立ち上がれば、野犬は直ぐに唸り声を上げ牙を剥く  「 グァッ!! 」 「 私を噛んだら、この子…落としますよ? 」 野犬の方に子猫を向ければピタリと口を開けたまま止まった為に、ふっと息を吐いてはそっと子猫を抱き直す 「 分かれば宜しい…。貴方も痛かったでしょう…よく、頑張りましたね… 」     子猫をそっと撫でては、車へと歩いていけば野犬は手足をびっこ引きながら着いてくる よっぽど子猫が大事なのだろう 目が合えば直ぐに唸られるが、車から園芸用に買っていたスコップとおやつを取り出し、公園へと戻る その間もずっと野犬は、一定の距離感を保って着いてきていた
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