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「 いっそのこと、白兎さんが、捕まえて連れて帰ってはどうですか? 」
「 あぁ…いや、俺の家はペット可では無いんですよね… 」
汚い大きな野良犬に、飼い主候補が現れることもなく
ユキという名前のついた犬を見掛け初めてから二年目になった
相変わらず、週一度のペースでやって来てはおやつだけを食べて、軽く触った程度で離れて行く
五分もその場に居ない野良犬相手に、
態々引っ越してまで迎える準備をするほど、暇じゃないんだ
「 それは残念ですね… 」
「 そうですね… 」
残念なのだろうか?
飼ったこともない俺が、
デカイ犬を飼いたいと思う気も無いんだが…
寧ろどうやって世話したらいいか分からないからこそ、俺の中でユキを飼うって選択肢はない
大きな野良犬は、仕事が終わる時間か、昼頃にちょこっとやって来る
ガラス越しにこちらを見てる姿が見えれば、おやつを持って外に出ては与えるだけ
尾を軽く振る様子から、俺の事が嫌いなわけでは無いのだろうが…
都合のいい、おやつをくれる人ってぐらいだろう
だからこそ、コイツは直ぐにこの場を立ち去る
月日は巡り、八年が経過した
相変わらず週一にやって来る汚い犬は、更に汚さを増してるが、其れでも変わらない足取りと動きを見せては俺の元に来る
最初の三年ぐらいは、その内いなくなるだろうなって思ったが…
次第に、愛犬の様に可愛く思えて仕方無い
来る度に自然と笑みが漏れてしまうし、コイツもまた尾を振る
「 アルバス。今日も来たんですね、こんにちは 」
ユキと言う名を止め、゙ アルバス ゙と言うラテン語で゙ 白 ゙と言う意味を新たに名付けた
見た目で名付けるのはよくある事だろう
最初は反応しなかったが、三ヶ月過ぎた頃から呼べば来るようになった
そして、流石にあの首輪は切れたのだろう
いつの間にか無くなっていたんだ
それもあってが アルバス ゙と呼ばれると反応をする
夏頃に、見た目が俳優並みに格好いい方が、男性へのプレゼントらしく、買いに来た
彼は、サプライズでプレゼントするらしく…どこか照れたように話してくれた
男性が男性へのプレゼント、それはこの業界では不思議ではないが、
俺はこの歳になっても、相手が居ないからそっち系ではないか?と問われることはある
だが、仕事が充実して、遊びに来る犬がいるから相手を作る気は無いだけ
いや…前にあるのだが、アルバスを見て汚いと近寄ることすらしなかった女に冷めてしまったんだ
アルバスは汚いが、だからといって最初から毛嫌いしなくても…
やれやれと思い、猪肉のジャーキーを与えていれば、その場を離れた
「 さよならを言わないのは、いつもの事だけど… 」
たまにはもう少し居てくれても、なんて思うけれど仕方無い
「 ふぅー… 」
しゃがんでた脚を立ち上がらせ、店内へと戻り、鞄に残りのジャーキーが入った袋を見せれば、見ていた従業員は告げる
「 アルバスが来て…八年になるよね? 」
「 確か、そのぐらいですね 」
「 でも動きが若々しい…。普通、大型犬って十年前後が寿命なんですよ?だから、随分と若いなって… 」
「 確かに、猟犬の時が…三年半と聞いてたから。少なからず十年半は生きてますね 」
少し老けたように見える女性達の言葉に、
確かにこの八年で狼や犬の事を学んで、知識だけはかなり詳しくなってるから、十年半の月日を得て、
尚…衰えない様子は不思議だと思う
「 よっぽど長生きなのでは? 」
「 そうかもしれないね… 」
余り考えたところで、寿命が近くアルバスが死ぬなんて思いたくはない
だからこそ、この話を切り上げる為に長生きという説を作っては話を止めておく
「 いらっしゃいませ 」
フッと、前に買いに来た男性が、もう一人の男を連れて入って来た為に、其々に挨拶をすれば、俺と対して背が変わらない男性は彼の腕を引き、ガラスケースを見る
「 どれです?お揃いにするのです! 」
「 どれだっけか… 」
嫌そうな顔をしてるのは、もう一つ買わなかった意味がバレた事でしょう
お揃いと言った言葉に小さく笑いそうになれば、声を掛ける
「 失礼ですが、クリスマスに受け取りに来て下さった方ですよね? 」
「 そうだな… 」
「 あれはデザインから全てオーダーメイドの指輪なので、宜しければ同じデザイン画が残っていますので、お作り出来ますよ? 」
「 そうなんですか?では、御願いします 」
「 畏まりました 」
仲のいい同性同士のカップルもよく見るけれど、彼等の場合はそれ以上に思えた
片方のために一生懸命に選ぶ男性と、ペアにしたいと聞き出してまで来る男性
何方もお互いを思ってるのでしょうと思えば、軽く説明をし、男性の指に合うサイズを調べてから、それをオーダーメイド用の書類に書き、必要なサインは書いてもらう
「 ありがとうございます。職人がつくるので一ヶ月ほどは掛かりますが…宜しいですか? 」
「 構いません。御願いします 」
「 はい、では気長にお待ち下さい 」
前金を受け取り、彼等が楽しそうに帰ればフッとガラス越しに見えるアルバスの姿に、どうしたのだろうか?と疑問になる
その場を他の店員に任せて、店の外に出た
「 どうしたんだ?アルバス 」
いつもなら、何処かに帰るはずだが…
そんな様子が何もなく、疑問に懐き触れようとすれば、俺の足元へと骨付き肉を置いて、それを鼻先でこちらへと向けた
「 これを…俺に?あ!アルバス… 」
貰っても食べる気にはなれないが、
アルバスはこの日から、贈り物のようにどこからか残飯を持ってくるようになった
「 それ、アピールじゃない? 」
「 アピールですか? 」
「 そうよ、猫も飼い主に捕まえた物を持ってくるって言うし、狼の雄は雌に食べ物を運んだり 」
「 俺は、雌では無いんですがね… 」
残飯を拾う身にもなって欲しいが、自分で食べずに持ってくるアルバスの精神に、
只、心は揺れ動く
いつ死ぬかも分からない、十歳を過ぎた大型犬を飼う…
それは果たして、動物を飼ったことのない俺が経験して、
もし…、先に死んだら耐えれないんじゃないか…
そう思うと、中々決心は付かないでいた
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