142人が本棚に入れています
本棚に追加
〜 元ユキ 視点 〜
暖かく、賑やかな声がする中で生まれた
゙ まぁ、なんて白くて可愛いの ゙
゙ ほんと、ママそっくりだな ゙
何も見えず、何も聞こえないまま
空腹だと言う感覚が強くて母の乳を探る様に、無我夢中でミルクを求めた
母は俺と同じく真っ白な毛並みを持つ綺麗な狼で、父は茶色いまばら模様の少し大きな狼だ
俺は、四人兄妹の末っ子として、小さな森で生まれ、育った
兄妹達と遊び、母は優しく暖かく包み込んでくれて、沢山毛繕いをしてくれて
父は格好良く、逞しく、大きな鹿を一頭で仕留める事が出来て、尊敬していた
そんな家族の愛情を沢山、注いで山を掛け走っていた時に、不思議な匂いに気付く
「( なんだろ、これ…? )」
肉のような匂いだけど、ちょっと他の物も交じってるような匂いに、疑問に思っても好奇心が勝った
顔を上げて、兄妹達が近くに居ないと分かってもそれでも、ゆっくりと近付き
見掛けた先に、大きな肉がぶら下がっていた
「( お肉!これ、皆に持って帰って上げよう )」
自慢しよう、皆で食べようと思い、なんの肉か分からないけど、獣の匂いがしたお肉へと近付き噛み付いて引っ張る
「 グゥ…!( 取れない…! )」
その瞬間、背後でガシャッ!と大きな音がし、驚いて肉から口を離して振り返れば何故か目の前は閉まって、此処から出れなくなっていた
「 クゥンクゥン( なにこれ!?ママ、パパ!助けて!!お兄ちゃん!お姉ちゃん! )」
出ようと藻掻いて、必死に隙間から出る手で土を引っ掻いて開けようとした
泣いて、泣いて、一晩中泣き続けて
誰も来ないことが寂しくて、朝日が昇る頃に、父はやってきた
「 ん……? 」
「 御前…こんなところに…。今、出してやるからな! 」
泣き疲れていた身体を起こして、開けようと牙を立てる父に、来てくれた事が嬉しくて内側からも開けようとすれば、聞こえてきた足音に父は顔を上げた
「 っ……! 」
「 グゥ!( 待って!パパ!置いていかないで! )」
見つかってはダメだ、そう言われていだ 人間 ゙と言う生き物が来たことで、
父は…俺を見た後に酷く悲しそうな眼差しを向ければ、森の中へと急いで逃げて行った
「 クゥン…クゥン!( パパ!パパ!! )」
呼んでも父は戻って来ることは無く、代わりに人間が現れた
「 野犬の子か…随分とちいせぇな 」
「 真っ白だな。此れは、引き取り手が見つかるんじゃねぇか? 」
「 だな、ダメ元で探すか 」
何を話してるのか分からず、不安で身を丸めていればそのまま入っていた檻を持ち上げられ、運ばれた
直ぐに黒い布で覆われて、周りが見えなくなって分からなかったけれど、移動するような感覚をして、身体は左右に揺れて気分は悪くなっていたんだ
「( うぅ…パパ… )」
父は助けようとしてくれて、この人間が現れなかったら頑張ってくれたに違いない
去り際に゙ ごめんな ゙って言った言葉を聞いてるから、謝らなくていいよって伝えたい
俺が不出来で、罠の匂いを嗅ぎ分けることが出来なかったから、お腹はそこまで減ってないのにお肉なんかに気を取られたからだ…
全部、俺が悪い……
反省して落ち込んで、疲れて眠っていれば
沢山、揺られた後に外では無い場所に連れてこられた
「 取り敢えず、コイツは俺が預かる 」
「 嗚呼、頼むぜ 」
三十代位の男は、自分の家へと俺を連れてきた
この人間の匂いが充満する、大きな木が幾つも組み重なって出来た一軒家
まだ季節的に使わない暖炉の側に、柵を立ててその中に、俺を引きずり出してから置いた
「 そう怖がることもない。俺は別に御前を取って食べたりしない。そりゃ野犬の数は減すけど殺しはしないさ。だから御前も…新しい家族が出来るまで俺と暮らすんだよ゙ ユキ ゙ 」
「( ユキ……? )」
顔を上げれば男は、ニッコリと優しく笑って身体に触れてきた
最初は怖かったけど、優しくて暖かくてそれが嬉しくて、直ぐにこの人間は悪く無いと知る
温かいミルクをくれて、砕いたイノシシの肉を食べさせてくれて、ちょっとグチャグチャした変な容器に入ってたご飯もくれたけど、お腹いっぱいに食べさせてくれた
「 ユキ…おいで 」
そして、いつも決まっで ユキ ゙と発音しては、大きな手で頭を撫でてくる
最初は狭い柵の中だったけど、夜泣きをしていたら彼の匂いがする布団の中に連れてってくれて、眠れば、
その日からいつもそこで一緒に寝るようになった
「 ほら、ユキ。これでどこに居ても分かるな 」
「( ん? )」
此処に来て月日が代わり、俺も多少足腰が丈夫になって部屋の中を走り回ってた頃
この男は、首に何か飾りを付けた
黄色い鈴の付けたそれが首を振る度に動いて、鬱陶しいけど、彼はそれを見て笑っていた
「 よく似合ってるぞ、ユキ 」
クシャリと頭を撫で回されるのが嬉しくて、自慢気に吠えれば、彼は更に笑っていた
人間の傍が嫌ではない、特に彼の傍は居心地がいい
何度か誰かと話してる事もあったけれど、直ぐに頭を撫でてきた
此処に来て三ヶ月頃、彼はあるものを持ってきた
「 ワフッ?( なにこれ、美味しそう )」
「 ユキ、今日から御前を゙ 猟犬 ゙として育てる。此れは猪の匂いだ。この辺りで作物の被害が出て困ってる動物だ。良いか、この匂いを覚えるんだ 」
「( わかった! )」
最初は、人間の言葉は分からなかった
けれど月日が経つに連れて其の言葉はハッキリと分かったからこそ、彼が言った意味も直ぐに理解出来る
しっかりと匂いを嗅げば
「 探せ 」
そう言われたから、部屋の床を嗅いで同じ匂いがある場所への走る
「 ワフッ!( あった! )」
「 ユキ、凄いな!( 一回で出来るとは素質があるな… )」
タンスの後ろに隠してたそれを引っ張り出せば、彼はまた大きな手で頭を撫でて来ては猪肉を食べさせたくれた
探せ、そう言われた後に見付ければおやつをくれる
それを理解してからは、部屋の外で遊ぶ時間が増えた
「 ユキ、この匂いを探すんだ。行け! 」
「( 分かった!! )」
森へと走り出して、匂いがする方へと一目散に向かいバッ!と姿を見せれば驚く
「 うおっ!? 」
「( あれ、人間? )」
なんで人間がその匂いをしてるのだろうか?と地面に降り立って見れば、腰に猪の毛皮を着けていた
「 っ……! 」
「( あ!待ってよ!! )」
逃げるから追い掛けて、襲わない程度に脚の遅い人間に着いていけば、いつの間にか彼の元に戻って来ていて、息を切らす男の腰にあった猪の革を咬んで引っ張る
「 グルル…!( これ、返すんだ!! )」
渡せばおやつが貰えるからそれを引っ張っていれば、彼は身体に触れる
「 ユキ、もういい。良く出来たな 」
「( ほんと!? )」
「 嗚呼、猪を見付けたら俺達…猟師の元まで追い立てるんだ。お前の役目はそれでいい 」
「 こいつ、訓練し始めて三ヶ月とは思えないぐらい賢いよな。足場の悪い森にも適用してる 」
褒められた事が嬉しくて、おやつを食べながら耳を傾けては、話を聞く
「 元々野犬だから、土地には慣れてるんだろう。此れから楽しみだ 」
「 森河さんの、新しい猟犬ですもんね。前の子は、惜しい事をした 」
「 崖から転げ落ちなければ…今でも立派な、猟犬だっただろうな… 」
彼は森河 津富って名前の人らしく
猟友会?って言うメンバーの中では、比較的に若くて実力のある人らしい
部屋にある、写真で分かるが…
彼には短毛で茶色と白の模様がある、身体のスラッとした猟犬ってのがいたらしい
それ以外にも、何頭か居たけど…
皆、この家にいないって事は死んだのだろう
最初、俺も里親を探してたみたいだが
彼が名前をつけて可愛がったことで、
俺を大好きになったらしく、手放せないって理由で傍に置いてくれた
「 ユキ、愛してるよ 」
「( 俺も、津富が大好きだ! )」
「 クスッ…。ユキ、一緒に寝よう 」
「( うむ! )」
夜になると必ず言ってくる言葉が嬉しくて、
身体が大きくなっても尚、彼は横に誘ってくれて一緒に寝ていた
俺は、すっかり猪を追い立てるのが上手くなっていった
「 ユキ、GO 」
「 ワフッ…!( 任せて!!デカイの探してきてやるよ! )」
最初のコメントを投稿しよう!