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津富は身体が悪く、何やら病気らしく猟師である事を一時的に止めて、このペット可能のマンションの一室で暮らし始めて
俺も、腕が痛いから少しの間は猟犬である仕事は、お預けとなった
「 ゴホッ…ゴホッ。はぁー、情けな… 」
咳をしながらも、仕事の始まる前や終わりに吸ってた、いつもの煙草を吸い始めた津富に、そっと起き上がっては窓際に座ってる彼の近くへと行く
「 …そんな事はない。津富は、情けなくない。俺が一番良く知ってる 」
「 ……やっぱり聞き間違えじゃないよな。ユキ、御前…喋れるのか? 」
「 ん?うん…そうみたい 」
理由はよく分からないが、何となく頷けば彼はそっと手を伸ばし頭に触れてから、首元を撫でてきた
「 まぁ、御前は只の犬じゃないと思ってたから…不思議ではないが。バリクソ、違和感はあるな 」
「 黙っとこうか?……ワン 」
「 ふはっ、今更いいさ…。それに、ゆっくりと話をするのもいい 」
煙草を左手に持った津富は、何度も首を撫でてくれた
話をしよう、そういった言葉の通りにゆっくりと色んなことを聞いた
彼の両親は、農家をしてて猪の被害で、沢山の作物がやられてお金も赤字だったと、
けれど農家を継ぐ前に両親は亡くなり、作物を荒らす猪が許せなくて、二十歳の頃から猟師となって、その頃から猟犬もいたって
猟犬同士で繁殖した子を貰っては育てて、たまには野良犬も育てたらしい
そして、あの森には野犬が多いって噂を聞いたから罠を仕掛けてみたら、俺が捕まったらしい
他の兄弟や、両親が捕まったかは分からない
俺が捕まった事で罠の匂いは覚えただろうし、捕まってる報告がないことも聞いた
だから、津富は聞いてきた
「 生まれた故郷に帰りたいなら、帰してやる。但し…人間には捕まるなよ? 」
「 俺は、ずっと津富といるよ。津富の傍が…俺の居場所だから 」
「 ふはっ…そうか。ありがと…ユキ 」
彼は一際嬉しそうに笑って、額へと擦り当ててきた
もう、森は如何でもいい
この人とずっと一緒にいたい、咳をするときは背中を擦りたい…
そう、強く願っていれば、
一緒に暮らし始めてまた一年が経った頃に、俺は姿を、変えた
「 津富…… 」
「 ……ユキ、なのか? 」
触れたいと強く願ったことで、人の姿へと変わった俺は、ベッドに横たわってた彼に被さっていた
白髪の髪に青い目をした、青年らしく
驚いたような顔をした彼は、直ぐに困ったように笑う
「 やっぱり御前は…普通の犬じゃないな。相変わらず綺麗な顔をしてる 」
「 こんな俺も…好きでいてくれるか? 」
「 嗚呼、もちろんだよ。ユキ…愛してる 」
「 俺も、津富…大好きだ 」
怪我が治ってからも沢山散歩に行った、
歩きながらコンビニで買ったアイスを食べて、お祭りに行って屋台も回った、海にも、川にも遊びに行ったし、街の美味しくない雪も体験した
いつも一緒にいた津富に、パートナーとは別の感情があり、それは彼も直ぐに受け入れてくれる
「 愛犬を、抱く日が来るとは…。ユキ…俺と繋がっても…いいか? 」
「 はぁ…もち、ろん… 」
沢山キスされて、優しく撫でられては、雄である津富に身体を開く
津富ではなく、他の猟師が俺の子供が欲しいと言って、猟犬のメスを連れてきて交尾をお願いして来たことがあるから、見様見真似でしたけれど
そのメスとは子供が出来なかった
今なら分かる…
俺はきっと、孕ます側じゃないんだ、と……
「 ンッ、!ぁ……っ! 」
「 はぁ…ユキ…… 」
津富の熱いものが奥へと注がれて、
それに反応して身を震わせては、彼の身体に抱き着いた
そっと額に口付けを落とされ、惚けた顔を見せれば津富も、欲の含む瞳を向けて微笑んでくれて、甘い交尾を長くしてくれた
それから半年後
「 つ、津富…起きてくれ!! 」
「 ゴホッ…ゴホッ…、ん…なんだ? 」
腹が痛くて深夜、彷徨いてた俺は朝起きて増えてる゙ モノ ゙に驚いては津富を起こした
彼は軽く咳き込んだ後に、犬の俺が連れていき
お気に入りの毛布の上へと転がってるのを見せる
「 見てくれ……子犬が…… 」
「 ゴフッ……! 」
「 津富!!?血が!!鼻血か、それ!! 」
吐血かと思いきや鼻血を出した津富に驚いたけど、
多分…彼の方が何十倍も驚いただろう
なんせ、チンコもあるオス犬が二匹の子犬を産んだのだから
一匹は真っ白で、もう一匹は白と黒の毛並みをしてる
どちらも俺によく似て、コロコロしてる
「 はぁ…ユキ…。御前、雌だったのか…というか、俺の子か? 」
「 た、多分…… 」
「 そうか……可愛いな 」
この人は、疑う事も、悩む事も無く子犬達を受け入れた、
名前をふゆ、つき、と其々に雌と雄の名前を付ければ可愛がってくれた
俺もまた、子犬達を沢山可愛がった
けれど、ふゆとつきが生まれて二ヶ月後
「 ワフッ!( 帰ったらチビ達に、猪肉をあげよう! )」
「 っ、ゴホッ…… 」
「 グゥ?…!!( 津富!!? )」
ジビエを買った帰り道、津富は道の真ん中で血を吐いて倒れた、焦って駆け寄る俺だが既に津富の意識はなくて、近くの通行人が救急車を呼んでくれた
けれど俺は、救急車には乗せてもらえず、その救急車を追い掛けた
「 ハァー…ハァー…( 津富…津富…… )」
やっと救急車が止まり、病院に辿りつけば酸素マスクを付けた津富は、そのまま中へと運ばれた
手足がコンクリートで擦り減って痛むけれど、辺りを見てから姿を隠せる場所で人の姿へとなり、病院の中へと入る
匂いで手術されてる部屋は分かった為に、そこまで走っては扉の前に立っていた
「 津富…… 」
長い手術だった、近くのソファーに座ったり、扉の前に立ったりを繰り返して、ウロウロしていた
家ではお腹を空かせて待ってる子供達が居るだろうに、俺はそこから動けないんで居たんだ
病院に通っていたのは知ってた
終わる度に、いい顔をしないで、少し寂しそうに頭を撫でてくる手を知ってる
けれど、津富は何も言わなかった…
聞けなかったんだ…
どれだけ、身体が悪くなってるのかなんて…
手術のライトが消え、扉が開いた為に駆け寄れば、彼はそのまま個室へと行き、俺はそっと横へと行く
もう、酸素マスクはしていなかった
少しして目を覚した津富は、俺に気付いてはそっと頬に触れてくる
「 ユキ…… 」
「 っ……津富…… 」
か弱く、少し雪のように冷たい手を握って頬を擦り付ければ、彼は静かに告げた
「 子供、達を…任せる…。ユキ…、泣かないでな…。…俺は…ずっと、御前が……気味悪かった……犬で、いろ……誰にも…話す、な……( 話せばきっと…御前は…実験、材料に…されてしまう )」
「 っ……!! 」
頬から手を離した、津富は眠るように息を引き取った
゙ 犬でいろ…… ゙
外に出る時はいつも犬であることを求めたのも、周りに子犬達が居ることを聞かれても゙ 拾った ゙って言った意味が分かった
津富は嫌だったんだ…
犬が好きだから…犬でいて欲しかったんだ
だから、猟犬なんて止めて…
街にいさせたんだ
「( ごめんなさい……。きもち、悪くて…… )」
大切な人の気持ちを知らなくて、最後まで嫌われてた事を知らないのが辛くて、泣いていた
悲しくて、身を振るわせて泣けば、猟師達がやって来た為に、津富を任せて病院を出た
泣き泣き歩きながら、人のいない所で犬に戻り、そのまま走って家に行く
「 チビ達……? 」
けれど、薄く開いていた扉に焦って入れば、何処を探してもチビ達の姿はなかった
焦って、焦って、部屋の物すべてひっくり返した時に、猟師は戻って来る
「 ユキ、あの子犬。保健所にやったぞー。もう津富も死んだんだ。また猟犬になって……って、ユキ!!! 」
子供を探しに行かなくては
津富が唯一、残してくれた家族
けれど、走っても、走っても、走っても……
どんなに走って、子供達は見つかることはなかった
沢山、探した
保健所と行ったから市役所を始め、色んなところに探したけれど…
俺は知らなかったな…
既に、子供達は別々の猟犬の元に引き取られてるなんて…
「 脚が…痛い……、心が…痛い… 」
その日
大切なパートナーと、
腹を痛めて産んだ二頭の我が子も失った
家に帰る道すら分からなくなって、
帰ったところで誰もいない事も分かってるから
帰る気にもなれなかった…
人になって、道を聞く気にもなれない…
゙ 気味が悪い… ゙
そう、大切な人に言われたからこそ
もう俺は…人に慣れることを、
人の言葉を喋ることをやめようって決めた
犬であれ、元猟犬であれ…
あの人が惚れてくれた
゙ 犬 ゙であろう
それから一年は、子供達を捜して歩き回ったけれど、見つからなかった
そして、二年になる頃に白兎と言う男が強盗に襲われてるのを見て、咄嗟に助けた
人間は如何しても嫌いになれないし、何方かと言えば好きだ
だから、彼と…その店が心配で子供達を探しながら時々脚を向けていた
二年、三年…それ以上の月日が経過しても子供達を見付けることは出来なかった
もう、諦めようか…
そう思った時には、
俺も白兎も出会ってそれなりの時間が経過していた
御前の犬になろう
狼を捨て、隠して……
のんびりと平和な時間を過ごそう
「 アルバス、店の看板犬にならないか?きっと、皆…が見に来てくれる 」
「( …悪くないな )」
もし、人間として生きてくれてたなら…
いつか、会えるのではないかと思ったから、
俺は静かに、看板犬と過す事に決めた
もう、歩き回るのも疲れたしな
ここでゆっくりしても…バチは当たらないだろう…
〜 宝石専門店ARIAの店員と汚い白い犬 〜
人間を諦めた狼が、のんびりと暮らすまでの話…
本当は、夜の帝王と呼ばれ人に引き取られる予定だったのだが…
考えた末に、此方にしました。
アルバスは数年後、
婚約指輪を買いに来た男性と出会います
それが、自分の息子であり…彼も親であることは本能で察する…って話を書こうとして力尽きたのでここまでで。
おつきあい、ありがとうございました!
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