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「じゃ、誰なんだ?」
僕は意表を突かれて思考停止していたので、笑いながら尋ねた。
「#!&%’”!+‘{:・」
大真面目な顔で、希は聞いたことのない言葉を発した。
それは言葉だっただろうか。
ただ頭の中に響いてきただけのようにも思えた。
名前なのだろうということはわかったが、なぜわかったのかがわからない。
「この男の友人の中で、このような話を聞いてくれて、尚且つ誰にも漏らさないのは君だけなのだそうだ。話したところで誰も正気だとは思わないだろうが」
希の手に、金色の薄い円盤があった。
どこから取り出したのだろう。
「私は、非常に原始的だが意思の疎通が可能な記録を手に入れた。我が星の中でこのことを知っているのは私だけだ」
「星?このこと?」
希はかっと目を見開いた。
「この星にあんこが存在するということを、だ。あんこはエネルギー源にして貴重な財産だ。何物にも代えがたい。この男が知っているあんこはこれまで私が出会ったことのない至高のあんこなのだ」
あんこあんこと連呼されて、僕はきっとなまぬるい笑みを浮かべていたのだろう。
「信じる必要はない」
希は何となくしょんぼりして見えた。
「ええと、あなたがここにいるということは、希の身体は宇宙人のあなたに乗っ取られたということですか?」
話を合わせてみた。
信じてはいないが、希がちょっと気の毒な気がする。
「いいや。この男の自我は全く揺るがない。男が眠っている時間は好きに身体を使うことが許されているが、起きていれば私は介入できない」
「信じます」
僕は即答した。
希だか宇宙人だかは目をぱちぱちさせて驚いた。
「希は待ち合わせの時間通りには来ない男です。時間前に現れるなんてことは絶対にありません。こんなに礼儀正しくはないし、話は聞かないし、あんこは皿まで舐めますから。それにしても、何故希だったんですか?あんこのことは別として。ずいぶん扱いづらい男でしょう?」
少しだけ興味がわいて聞いてみた。
ひどいことを言ってる気もするが、本当のことだ。
「その手紙を読んでみるといい」
「いや、さすがにプライバシーとかあるし、読まれたくないでしょう」
「大丈夫だ。この男は気にしない」
そうだろうな、と僕は考えて希の手紙をひらいた。
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