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「おーい希!今どこにいるんだよ!同窓会の通知は出しても戻ってくるし、ちょっと困ってんだよ」
電話をかけて繋がったのに驚いたくらいだ。
細田希は僕の親友だが、しょっちゅう旅に出て音信不通になる。
写真家だから仕方がないが、そろそろ定住してくれないだろうか。
「おう、立派な住所不定だよ。今は便利だな、キャンプしてるっていえば大抵見逃してもらえる。それにしても相変わらず面倒見がいいんだな源治は。今でもまとめ役やってんのか」
電話の向こうから聞こえてきたのは、野太い笑い声。
そう、可愛らしい名前の希はやたらごつい男だ。
うっかり藪から顔を出したら猟師に撃たれそうになったという噂があるが、本当のことだと思う。
そして、できれば名前で呼ばないでほしい。
もっとも、僕は貧相な見た目なのに苗字だって熊尾だから、何だか逃げ道がない。
希と名前が逆だったらいいのにと、ずっといわれていたものだ。
「で、何の話だっけ」
希は人の話など聞かないから、これはチャンス。
珍しいことがあるものだ。
「この間の同窓会でね、タイムカプセルを開けたんだよ。どっかから水が入ったらしくて中身はボロボロだったんだけどね。いくらかは読める手紙も残ってたんだ。その中に希の手紙もあったから、もし会えるなら会いたいし、遠くにいるなら郵送させてもらおうかと思ってさ」
「タイムカプセルって何だ?」
え、説明そこから?
希のことだから、きっとタイムカプセルを埋めたことも手紙を書いたことも記憶にないのだろう。
「中学卒業の時にみんなで十年後の自分に宛てて手紙を書かされただろう?それを同窓会の時に掘り出そうっていって埋めたじゃないか」
「覚えてないな。でもまあちょうどいいや。今は森柿山にいるよ」
「何で近所の裏山にいるのに連絡よこさないのさ」
家に帰らないのもどうかしている。
希の所はご両親も大雑把だから、数か月連絡が取れないくらいでは驚かないようだ。
「面倒だからな」
希はこんな男なのだ。
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