金木犀怪談~無実なんです、信じてください!~

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   * 「『何点ご入り用ですか』?」 「うん」 「って聞かれてたのに、謝り倒した?」 「まあ」  雪彦は、ぬるくなった紅茶にのろのろと口をつけた。  弟とは、生まれたときから姉にいじらる宿命を持った生き物だ。下手な隠し事は通じない。  「ロゴで疑われるって何」と聞かれたりしたら、抵抗せずに洗いざらい吐くに限る。どうせバレる。生半可なごまかしは通じない。 「……恥ずっ! 」 「別に」  背もたれに倒れ込むという大袈裟なリアクションを受け流す。弟の恥ずかしい話は姉の娯楽だ、これ以上娯楽にされたくない。 「恥ずかしくないわけ?」 「全然」 「もうその店行けなくない?」 「平気」  都心にある人気店だ。客は山ほど来るのだから、憶えられていない可能性もある。憶えられていたとしても、受験生で学校が有って買いに来るのは無理な子にどうしてもプレゼントしたくて有給取って買いに来た、というのもセットで記憶されただろう。転売ヤーだと思われなければ別に良いのだ。 「ば……?」  平然としている雪彦が面白くなかったのか、何やらうめいた梨香は今度は横に倒れた。 「そうだった……馬鹿だった……」 「馬鹿じゃない」 「……従叔父(おじ)馬鹿……」 「それは認める」  気が付くと愛香の好物の西洋和菓子はいつの間にか減っていた。無くなっては土産の意味が無い。梨香の手の届かない所にそーっと移動させる。 「ゆき、重い」 「そう?」 「気持ち悪い」 「俺がおーちゃんだったとしても?」  愛香の母親である亡きいとこの名を出すと、姉は黙った。  自分たち姉弟が親との縁が薄かった分、注いでくれたのはいとこや叔父叔母だ。約束したのだ、愛香を世界一大事にすると。 「それじゃ、彼氏も彼女も出来ないよ」 「大丈夫」  雪彦が愛香を大事にしていることは、周知の事実だ。それを知らずに近付いて来る女性は居ない。  愛香に彼氏が出来たてしても、愛香を世界一大事にする人間が増えるだけ。  何の問題も無いだろう。 「……大丈夫なことを、祈っとく……」 「どうも」  そろそろ学校が終わる時間だ。  ソファに崩れた梨香を尻目に、雪彦は愛香に今日の予定をたずねるメールを打ち始めた。            〈おわり〉    
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