育つ森

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育つ森

国境沿いにささやかな森があった。隣の国との間に広がった森は水の音がした。いつから広がり始めたのか分からない。最初はむき出しの大地と岩石ばかり広がる土地だった。戦争を繰り返していた国との間で、いつの間にかできた安全地帯だった。この森に入ればどちらの国の人間も争いごとをしてはならない。いつの間にか不思議な約束事ができていた。 足を引きずり腕から血を流した青年が森へと向かう。森の入り口で一人の老人を見かけた。黒々とした肌、盛り上がった筋肉は、老人でありながら兵士として通用しそうな体格だった。その男が黙々と木を植えている。森の中には何人か逃げ込んだ兵士がいるようだった。どちらの国の人間か青年には分からない。 「まだ木を植えてるんだな。もう十分じゃないのか」 老人はちらりと視線を向けてつぶやいた。 「武器弾薬はそこへ置いて行け。森の奥に医師がいるから手当をしてもらえる」 青年は大きな荷物をおろすようにその場に座り込む。背負っていた武器をおろし、身につけていた弾薬やナイフなどの刃物を外す。腰をあげようとすると間髪入れずに老人の声が飛んできた。 「毒薬や新兵器の類もだぞ」 青年は胸ポケットから包みを取り、自分たちの国を支援する国々からもらった新兵器も出した。兵士としての才に恵まれた少年は、チームを率いるリーダーに抜擢され最前線で戦わされた。いつ死んでもおかしくなかったし、今回生き残ったのも奇跡だった。だが、本当の奇跡をかつて少年だった青年は知っている。 こんもりとというにはお粗末な、小さな森を見上げた。 「奇跡とはここのことを言うんだろうな」 「神々のおかげだ」 「おじいさん、神様はただひとりだ。神々だなんて言葉は変だ」 むっつりと押し黙った老人は青年から武器弾薬など、人に危害を加える可能性のある兵器を受け取ると、早く中に行けと目線で促した。青年は重たそうに腰を上げる。引きずった足が治るか心配だった。腕から流れる血は止まらない。少年の頃から戦場で闘っている。何も残らず消えていくのが怖かった。
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