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【ミーニングレスタワー1階 西口 噴水広場前 黒のスカート #家出】
手持ちのお金もなくなり、本日一晩過ごせる宿を探すために少女はSNSで発信した。1時間もしないうちにスケベな男達が我先にとやってくることだろう。
家には母親とその彼氏がいるためあまり帰る気は起こらない。特に何かをされたりということはなく、むしろ母親もその彼氏も優しく接してくれるが、どうにもその態度が気にくわない。
帰るくらいなら知らない人の家に行った方がましという考えである。
噴水広場前は待ち合わせスポットとして有名なので、周りには同じく多くの若者がいて、皆誰かを待っているようだった。
少女が噴水広場前に置いてあるベンチに座ってスマホを操作していると、何者か近付いてくる気配を感じた。
SNSに投稿してから30分程のことである。
(ほらきたほらきた、とりあえず今日の宿は決まったね。ラッキー。おじさんかな、オタクかな、どうせなら若くて清潔感のある人がいいな)
顔を上げ、少しでも気に入られるように満面の笑みを向けて近付いてくる人物を迎え入れようとしたが、そんな少女の気持ちは裏切れられることになる。
「クゥベィバ。ニュジュビビ?」
そこに現れたのは、おじさんでも若者でもない。その方がどれ程よかったことか。
全身緑色でウネウネとしていて、何となく足と手の役割なのだろうという触手が全部で数十本ほど生えている異形の者だった。
顔と思われる部分には窪んだ穴が3つあるだけだ。ゾンビが溶けているような、ゲームに出てくる中ボスモンスターといったような風貌で人間とは程遠い。
周りにいる人には見えていないのか、騒いだり慌てたりするような様子はまったくなかった。もしかしたらスマホに集中し過ぎて気付いていないだけかもしれないが。
異形の者は何かを聞いているような素振りだが当然日本語でも、英語でもない。地球上に存在する言語ではないことは明白だった。
「あの、すいませんが……日本語でお願いします」
少女は驚いたり怖がったりするよりも先に、何を言っているのかが気になった。連日の疲労、精神的にもとても疲れていた少女にとって、驚く気にはなれず冷静な一言が咄嗟に口から出た。
「……あー。私は“しらたき星人”だ。お前は家を探してるのか?」
ウネウネしながら顔と思われる部分の3つの穴の1つがパクパクと動いた。どうやらそこが口なのだろう。
「そうですね。今晩過ごせるところを探しています」
「そうか。ではこれをやろう」
異形の者はそう言うと、口から何かを空中に吐き出した。
それはひらひらと宙を舞いながら少女のすぐ前の地面に落ちた。一万円札だった。
恐る恐る吐き出された一万円札を確認すると、透かしもナンバーも書いてある。どう見ても本物のお金だった。
「おまえは何故怖がらない?」
突如異形の者から質問が投げかけられた。
「んー……なんか世の中どうでもいいっていうか。襲われて死んだら死んだでそれでいいし」
「また明日も来い」
最後に一言、それだけ言うと異形の者は瞬間移動するかのようにパッと消えた。
再度一万円札に目をやると、ど真ん中に小さく数字の“1”が記載されていることに気が付いた。
とりあえずポケットにしまうと、今晩は知らない人の世話になる必用がなくなったので噴水広場前から移動することにした。
噴水はイルミネーションに彩られ、キラキラと輝き続けている。
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