第一話「自転車を捨てて」

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第一話「自転車を捨てて」

 便利屋さん」と言う仕事は、例えば「引越し」「不用品処分」など「いっかいぽっきり」の仕事だけだと思っていましたが、けっこうリピートもあるのです。  この人の場合は、今の所、三回目の依頼です。  でも、多分、また来ると思います。  なぜならば……。  ―――― 「ホームページを見て電話しました。何だか清潔感のあるデザインなので気にいりました」 「ありがとうございます」 「早速なんですが、自転車を持って帰ってほしいんですが、大丈夫でしょうか?」 「はい、もちろん」 「場所は、○○区△△のうちのマンションの自転車置き場です」  まあ、ごくごく簡単な用事だ。  と言うわけで、いつもの様に便利屋の大将にTEL。 「自転車、持って帰ってって」 「ああ、ええで。ほんでいつや」 「明日です」 「ええで」  そして先ほどの依頼主に、折り返し『OK』のTEL。  すると 「ありがとうございます。ただ、気をつけて下さいね。実は自転車の前のカゴに、何やら汚くて怪しい缶が入っているんです」 「怪しい缶?」 「ええ、汚れてるし爆発したらどうしようと思って近寄れないんです」 「危険物ですか?」 「きっとそうに違いありません。ああ、気持ちが悪い」  話が違う!  慌てて大将にTEL。 「なにー、危険物!なわないはん、あんたも来い」  そして次の日。  僕達二人の武装はあえて詳しく書かないが、自衛隊危険物処理班さながらの重装備。 「お前、先行け」 「いえいえ、歳の功より亀の頭」(意味不明)  びびりながらのほふく前進。  しかし、カゴに入っていたのは危険物などではなく、ビニール袋に包まれた、ただのジュースの空き缶。  そして、自転車はと言うと、ほぼまっさら! (この闘いの間、依頼主より2度『大丈夫ですか?命に別状はありませんか?』との電話あり)  一応、依頼主に「ただのジュースの缶だった」と伝えると「気持ち悪いから自転車も缶も捨てて下さい」との事。 「ほんまに世の中には心配症の人がおるもんやなあ」と大将。  これが、一回目。  続いて二回目は、 「電子レンジの中の玉子が爆発したんです。危険だし、気持ち悪くて気持ち悪くて。すぐに捨てて下さい」 「玉子が爆発したのは電子レンジのせいでもなく危険物でもない」  と言いかけたが、これも仕事仕事。  大将に行ってもらった。 「まだ、まっさらやったで、電子レンジ」  と業務終了の報告。  そして三度目 「うちのマンションご存知でしょ。その隣のマンションの壁に変な落書きがあるんです。もうイヤ。気持ちが悪くて気持ちが悪くて」 「消してきたで。ただの落書きや」と大将。  ただ今のところ、三度目でありますが、この調子で行くとこの依頼主、今後もリピートは続きそうです。  大将いわく 「最後はな、絶対言うで、あの奥さん。うちの主人が、気持ち悪くて気持ち悪くて……」(笑)
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