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第十三話「夫婦喧嘩の仲裁」
「話し合いの席に座ってもらうだけでいいのです」
「座るだけでいいのですか?」
「そう、真ん中に座るだけ」
「ほんとに?」
「本当ですって!」
「何の話し合いですか?」
「ちょっとした話し合いですよ!」
「ちょっとって、どれ位ちょっとですか?」
「だから、ほんのちょっとです」
「……ところで誰との話し合いですか?」
「…………」
「だから、誰と?」
「…………」
「まさかヤクザ」
「違います」
「じゃ、誰とですか?忙しいんだから電話切りますよ」
「かっ、かっ、家内とです!」
「えー、奥さん、と言う事は、夫婦喧嘩のあいだに入るとかですか……」
「いえいえ、仲裁なんかではありません」
「じゃ、なぜ便利屋があなたと奥さんのあいだに座るんですか?まさか奥さん包丁持って……」
「便利屋さん、勘繰(かんぐ)り過ぎです。いたって冷静な話し合いです」
「いたって冷静な話し合いの真ん中にどうして僕が座らなくてはいけないんですか?」
『……ふーぅ』
『……はー』
(お互い『ややこしい相手だ』と疲れてくる)
「……だから、私なりに大まかなプランと言うか段取りは立てているからなのです」
「プラン?」
「ええ、作戦!」
「どんな作戦ですか?」
「時々、私が目で合図します。あるいは足で便利屋さんの足を蹴ります。目で合図した時は、ウンウンと頷いてもらう。足で蹴った時は、それは違うと首を大きく横へ振る」
依頼の中身は今ひとつ解らないが、どうやらサインだけは完成している。そして、奥さんとの話し合い?………!
「ああ!ご主人、浮気ですか?」
「そうハッキリ言われたら困る」
「家内が事ある事にネチネチと詰め寄ってくるんです」
「そりゃそうでしょ」
「もう済んだ事なのに……。いい加減うんざりして来ましてね。それで、考えたんです。解決方法を!私の古い友人で、そう、便利屋さん、あなたの事です。あなたは中学からの古い友人になってもらってですね、浮気の大先輩になってもらってですね」
「浮気の大先輩って、何ですか?(ムッ)」
「だから、過去にひどい浮気性だったあなたが、今は改心して仲良く夫婦円満で暮らしている、と、まあ、反面教師とでも言いましょうか……」
「反面教師はたとえが違うと思うのですが……(ハァ~)」
「だから、まあ、クッション役ですよ。私たち夫婦の仲を取り持ってくれるだけでいいんです」
「でも、いずればれますよ、僕とあなたは古い友人でもないし……(イラッ)」
「だから、まず、口を合わせましょう。あなたの生年月日とかお父さんお母さんの名前とか私が覚えておいて、そうそうあだ名もいるな、あだ名!便利屋さんあなた、小さい時のあだ名……」
もちろん、この依頼はお断り。
何で僕がひどい浮気性なんだ!
それにしても、それだけ作戦が練れるのだったら、浮気もばれないように綿密に作戦を練ってからにして欲しいもんだ。
んとに……。
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