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第十四話「ゴミ屋敷の片付け」
人間、自分を捨てるって事があるんだ。
依頼主の家に入って、そう思った。
「すごいな、なわないはん」
「これがウワサのゴミ屋敷ですね」
「臭いな、なわないはん」
「すでに吐きそうです」
ホコリが溜まっているとか、雑誌が散らかっているとか、そんなレベルではない。
「畳の上に犬のウンコぽつぽつ」
「トイレに見た事ない虫ぐにゅぐにゅ」
「台所のシンクには、元食べ物らしき物体ぷ~ん」
「お風呂、カビだらけびかびか」
「来週ここを出るんですけど、大家さんがもうちょっと片付けてくれって言うもんですから……。一応、キレイにはしたんですけどね」
どこが、一応キレイだ……。
確かに引越しをする様で、家具はすでに取り払ってある。
(その証拠に家具があったスペースだけゴミなしホコリなし)
引越し屋さんも面食らっただろう。
…………
「こら、なわないはん、そんな所は最後でええ」
ばれた!
空気のいい玄関の掃除をしていると、大将に見破られた。
「まぐ、ウンゴとってダダミをふいれくれ。ワジはトイゲ、トイグェ、わかるかト・イ・グエやるザガいに」
(※匂いに負けた『鼻詰まり語』)
「ろころがライショウ、きたらいシゴロとはきいれいないのれ、ピガエ、ピガエもってきてません」
(※このままでは難解過ぎるため、以降『鼻詰まり語』⇒『標準語』に変換)
「ところが大将、汚い仕事とは聞いていないので、着替え、着替え持って来てません」
「ヨウグルトオモロッラ、えっへんアーアー、そう来ると思とった。着替えは一式トラックに積んどる」
「……残念!逃げるチャンスだと思ったのに!!」
――――
ズボンと上着を着替え、タオルを濡らしてマスク代わりにし、頭にもタオルを巻いてゴーグルを付けて、両手にゴム手袋を装着して、犬のウンコを拾っては捨て、シミをごしごし拭いた。
畳の間すべて終了。
続いてキッチン。
なぜかキッチンはピカピカだ。
ここだけ掃除をしたのか?
腐った物体以外、汚れはない。
換気扇もキレイだ。
油もまったく付いていない。
ああ、そうか!
料理をしないんだ。
いや、掃除もしないが、料理「も」しない。
いやいや、何「も」しないんだ。
そうか、人生、捨ててるんだ。
「終わったら電話下さい」
と、どこかへ去った依頼主は中年の女性。
髪の毛はぼさぼさ。服はよれよれ。
荒みきった家のあちこちに、後付けの手すりがある。
どうやら、年寄りが居たらしい。
しかし、今はその気配はない。
多分、年寄りが家事をしていたんだろう。
元気なうちは……。
そして、その年寄りが居なくなってからは……。
一通り掃除を終えると外はもう真っ暗だった。
――――
ふらふらになって家に帰った。
家はまあ、多少は散らかっているがさっきまでの家に比べたらまさに雲泥の差だ。
僕は、エラそうな気持ちになった。
『かみさんは自分の人生を捨ててはいない様だ。それはきっと僕が支えになっているお蔭だろう』
そうひとり心地ながら、匂いのない匂いとは何とありがたいかと、ひとりクンクン……
と、かみさん!
「ぐずざあああい。ろごいっれらりしれらろびょ?ばやぎゅおびろぶぁいっれ!ごほほ%△#?%◎&@□!」
(『鼻詰まり語』⇒『標準語』変換再稼働します)
「くっさーいい。どこ行って何してたのよ?、早くお風呂に入って!ごほほ(以下変換不能)」
僕は、小さいけれどカビの生えていないお風呂に、ゆっくりつかった。
『ごびやじぎろかたるけ(笑)』
(完)
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