第二話「偽造してくれ」(もちろん、すぐに断りました)

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第二話「偽造してくれ」(もちろん、すぐに断りました)

 怪しい依頼をしてくる人は「前フリ」が長い。  なかなか用件を言わない。 「ああ何でも屋さん、いやね、ちょっと聞きたい事がありましてね、ええ、ただの質問ですよ質問、別にどうってことのないただの質問、でね、おたく、何でも屋でしょ、何でもしてくれるんでしょ?」  こう言う前フリは、まず怪しい! ………… 「何でも屋じゃありません。便利屋です」 「どちらも代わりはないじゃないですか!」 「何でもかんでもしないから、便利屋です!」 「そりゃ屁理屈かね?人をおちょくっちゃあいかん。便利屋と何でも屋のどこが違うんですか?法律で違いが定められているんですか?……だいたいですねえ……」  相手はフリーダイヤルなので、好きなだけ喋る。 「ところでご用件は?」 「要件と言うほどでもないんですよ。ただ、銀行からお金を借りるだけなんです」 「はい、で?」 「なのに、使途を教えろと言うんです」 「まあ、そうでしょうね」 「あるいは、使った領収書を出せと言うんです」 「まあ、そうでしょうね。ところでご用件は?」 「だから、領収書がいるんです。でも、無いんです」 「だったら、借りれませんね」 「だから、作って欲しいんです」  ああ、来た!  僕はもちろん、きっぱりと言った。 「領収書の偽造をしろと言うわけでね。それはお断りします」  ところが、相手は引き下がらない。 「自分で作ろうと思いましたが、会社のハンコを押さないといけないでしょ」 「そりゃ、そうでしょう」 「私は個人ですから、会社のハンコなんかありません」 「そりゃ、そうでしょ」 「だから、何でも屋に頼んでいるんですよ」 「だから、何でもかんでもやりません。偽造はイヤです。お断りします」  『ガチャ』  キリがないので、こっちから電話を切った。  ところが、これで終わらない。  二日後この人、また電話をかけてきた。 「先日の領収書の者です。覚えてますか。じゃ、こう言うのはどうでしょう?」 「だから、偽造はしませんってば!」 「偽造じゃないんです。聞いて下さい。私がおタクの会社のハンコを借りる。それだけ。そして、私が領収書に押す。どうです、これなら問題はないでしょ!」 「だから、そう言う問題ではなく……」 「どこに問題がありますか?何なら私、そちらにお伺いしますよ。今からハンコ借りに……」 「けっこうです。絶対に来ないで下さい!!!」 ………… 「……ところで、どうしてウチなんですか?」 「だから、おタクは何でも屋でしょ!」 「だから、ウチは便利屋であって……」  このやりとり、それはそれは長い間続きました。 <おまけ>  同業者の方から話を聞きましたが「何でも屋」と名乗るのは良くないそうで、怖い筋の人に「お前、何でも屋なら人殺しでも何でもするんやな、えっ!」と脅された事があるとか……。  だから便利屋と称しているのですが、それでも時折、こんな人が現れるのであります。
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