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第六話「天国にネットショップはないよね……」
「なわないはん、この『Amazon』とか『楽天』ちゅーのは何や?」
大将がダンボールを抱えて、僕に尋ねる。
「それはインターネットで買い物できる、デパートみたいなものですよ」
「ほー、おばあちゃん、パソコン使えたんか!オシャレなおばあちゃんやってんなあ」
遺品整理に行くと、かなりの率でこうしたまだ封を開けていないネットショップのダンボールが出てくる。
遺族達はそのダンボールを開けて、ひとしきり驚いたり笑ったりする。
段ボールの中身は、大量の青汁の粉末だったり、布団カバーだったり、名曲CD何十枚セットだったり……。
「まだまだ開けてない『Amazon』が一杯あるで!このおばあちゃん、買い物好きやってんなあ」と大将。
『違うんだよ、大将、ほら、家の中は手すりだらけでしょ!』
僕は、大将に心の中でそう言う。
――――
おばあちゃんは多分、もう遠出の買い物は出来ない身体だったんだろう。
だから、頑張ってパソコンを憶えた。
それはそれは楽しかっただろう。
まだ、身体の自由が利いた頃、電車に乗って街へ出てリアルの商店街でウィンドウショッピングを楽しんだ、そんな頃の気持ちでいたのだろう。
きっとおばあちゃんは、使うことが目的で買い物をしたのではないだろう。
インターネットの世界で買い物をする、そのプロセスの方が楽しかったのだろう。
だから、ネットで買って家に届いてたモノ、それはもう、おばあちゃんにとっては、おままごとの残滓、無用のガラクタだったのだろう。
それが、この大量のダンボール。
――――
「ここにあるモノは全部新品ですから、便利屋さん、使って下さい」と遺族。
『おばあちゃんがいらなくて、あなたたちもいらなくて、そんなモノがいくら新品でも、僕もいらない』とは言わない。
「僕達は古物商でもありますから、ご指示頂いた物は査定させて頂きます」と答える。
――――
帰りのトラックで、大将が言う。
「なわないはん、今日はなんとなく機嫌、悪そうやなあ」
「すみません、遺品整理は苦手です」
……インターネットがこれほどまでに普及して確かに便利になった。
でも、僕はそれが本当に正しいのかと思うと、どうもそんな気にはなれやしない。
――――
おばあちゃんへ
天国の商店街はにぎやかですか?
これからは、自由にショッピングが出来ますね。
おばあちゃん
もちろん
天国には
ネットショップは
ないよね?
「天国にネットショップはないよね……。」
(完)
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