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第七話「家具の組み立て」(クラクラシマシタ)
僕は本業の合間に「便利屋さん」の仕事を手伝っている。
と言っても非力で何の技も持たないので「ホームページの管理」と「時々、電話の取次ぎ」そして「雑用」ぐらいだ。
おっと、電話が鳴った。
「ソファーベッドを組み立ててほしいんです。うっふん」
――――
その声はセクシーだった。
少しハスキーで、艶があって、電話口の向こうから甘い匂いが漂ってくる様だった。
「工具も全部付いてるので、手ぶらで来ていただいて結構よ」
一瞬『手ブラ』と聞こえた。
電話の主が、スッポンポンで、手をブラジャー代わりにしている姿が頭に浮かんだ。
電話を切って眼を閉じた。
『さあ、奥さん、ソファーベッドの完成です』
『ありがとう、便利屋さん。あなたのおかげで助かったわ』
『さあさあ、座り心地を確かめて下さい』
『あら、ここち良いクッションだこと』
『横になって寝心地も確かめて下さい』
『ああん、いい気持ち』
『僕もいい気持ちになりたいです』
『私もそう思っていた、と・こ・ろ』
『がばっ』
いかん、この仕事は僕ひとりで行く!
抜け駆けだと言われようが、卑怯者と罵られようが、手ブラが待っている!
しかし、本当に組み立てられるのか……。
目玉焼きも満足に作れない僕が、ソファーベッドなど組み立てられるのか?
う~ん、まず、無理だろう。
あ~~
声がセクシーでも外見は大したこたあないだろう。
手ブラと言っても、垂れてるんだろう。
第一、夜の9時に来いって、そんなの怪し過ぎるではないか。
ああ、そうだ、こんな女はヤクザの女に決まっている。一人で行くのは危険過ぎる。
ひとりあーたらこーたら……。
(諦めるのに、かなり時間がかかった)
――――
「あ~あ、ソファーベッド組み立てて欲しいって」
いつもの様に大将に連絡した。
「そうか、なわないはんは、その時間、空いとるか」
「別に用はないですけど」
「いやな、ソファーベッドの組み立て方ぐらい、覚えといた方がええかなと思てな」
「まあ、そうですね」
どんな手ブラ女性か見てみたい事もあって、僕も行く事にした。
――――
そして当日、夜の9時。
マンションのチャイムを鳴らし、出てきた女性は……。
『その声はセクシーだった。少しハスキーで、艶があって、電話口の向こうから甘い匂いが漂って……』
いいや!
想像よりひとケタ以上セクシーだった!
おまけに本物の甘い匂い!!
クラクラしてしまった。
「ごめんなさい、今、帰って来たばかりなの。着替えるから待ってて下さい」
ああ壁の向うでは、今、まさに手ブラ状態……。
「あらー、本当に器用ですねえ、ご主人」
「あったりまえやー。こんな用事、へのカッパや」
テキパキとソファーベッドを組み立てる大将。
その横で大将の仕事振りを眺める、ラフな部屋着に着替えた艶かしい女性。
そして、僕はと言えば、隅でゴミ拾い。
――――
次の日、朝一番で僕はホームセンターへ走った。
「すみません。組み立てていないソファーベッドと組み立てる工具を下さい」
必ずや訪れる、新たな手ブラ女性とのチャンスを逃がさないために!
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