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私は貴幸さんに、自分の身の振り方や家族の事は相談したが、婚約者がいる事は伏せていた。婚約者がいるなら彼に相談しな、と言われるのは目に見えてる。
だけど私と同時期に帰郷し、親の会社とはいえ一新入社員として頑張っている颯天には、言いたくなかった。
以前より精彩を欠く自分を見られたくない。姪っ子達の世話で忙しいを理由に、なるべく颯天と会う時間を作らなかった。
代わりに頼った貴幸さんからの返信が、時間の経過と共にカタイ内容から少しずつ色を帯びてきて、癒されると同時にトキメいた。
彼から『彼氏はいるの?』と聞かれ、
「いないよ、けど…」
『けど?』
「気になる人はいるかな」
と曖昧な返事をする。
日々の刺激が少ない、物足りなさを補う様に始めた疑似恋愛風のやり取り。
それに自らハマった。
言葉遊びから本気に育ててしまった。
貴幸さんと衝撃的な再会をするのは、その最中。
奇しくも、母と姉が私に内緒で颯天との縁談を推し進めてる時、酔って上機嫌な颯天が迎えに来てと電話してきた。滅多にない彼の甘えた声音に、しょうがないなぁと車の鍵を取り、言われた店の暖簾をくぐる…
私を紹介する颯天の声が耳に入らない。ただ唖然と互いを見つめるばかり。
母と姉を問い詰めると、二人とも口を揃えて
「颯天君を待たせちゃって悪いことしたわ」
と言い、続けて母は
「あなたが手伝ってくれたお陰でお父さん大分良くなったけど、頭がしっかりしてるうちにあなたの結婚式を見せてあげたいの」
自宅でのリハビリや通院で、父の麻痺症状は軽くなった。しかし以前のような社会活動が思うように出来ず、父は痴呆が始まっていた。先日母は、父の施設への入居を手続きした。
「雲母がいてくれて本当に助かったわ。近頃じゃうちの子達、雲母叔母さんの味がオフクロの味だから、無理に料理しなくていいよなんて生意気言うの」
姉がそう軽口を叩けるのも、子供達が落ち着いてきた証拠だ。家事が出来ないくらい多忙を極めてたけど、今姉は休日時々台所に立つ。
「だから感謝を込めて、雲母の結婚式は盛大にするわね」
家族が楽になり、穏やかに過ごせる。
幸せなはずなのに、急速に居場所がなくなっていくのを私は感じた。
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