終章

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※ ※ ※ 「あっ!義姉さん、ここにいた」 振り向くと、開けっ放しの部屋の入り口に聡美ちゃんがいた。 「大丈夫?」 彼女は窓際に立つ私の隣に来て、心配そうな声を出す。 「うん…」 私は再度外に目を転じる。空は青く、通り抜ける風が心地いい。遠くの山の緑にくっきりと雲の影が落ちているのが見える。 「ここは、うちで一番眺めの良い部屋なんだ」 「知ってる。以前…引越しの時、颯天が言ってた」 実家のこの私室から彼は少ない荷物を、新婚生活をおくる新居に運んだ。あの日も今日みたいに快晴で、窓から入る澄んだ空気が気持ちよかった。 聡美ちゃんは私と並んで外を眺める。しばらくして視線を景色においたまま、彼女は大きく深呼吸した。 「兄さん、何で死んじゃったかな…」 颯天は、最近山林に多発する産業廃棄物の不法投棄を巡回中、一川(にのまえがわ)で溺れて死んだ。都会から川遊びに来ていた親子連れの水難に偶然遭遇し、子供を助ける為川に飛び込んだのだ。 颯天の遺体は傷一つなかった。 一川の上流から流されると大体、遺体は酷く傷む。しかし寝てるような安らかな死に顔に、列席者達は口々に『宮代家はやはり川の神に愛されてる』と囁いた。 颯天の両親は息子の死が受け入れられず、気力を失ったままだ。 「ホント信じられない。兄さん嘘みたいに綺麗な顔のままだから、『寝過ごした』とか言ってひょっこり起きそうな気がするもん」 「…」 聡美ちゃんは思い出した様に、 「もうじき出棺だから下に行こう」 と優しく私を促した。 階段のところまで行くと、階下からひとしきり大きな声が聞こえた。 「だから~聡美とアンタが結婚すれば、跡継ぎ問題も解決するさ~」 私が立ち止まっていると、聡美ちゃんは 「又あのおじさん、あんな事言って」 軽く舌打ちして、 「アイツも身内じゃないのに、仕切り過ぎなんだよ」 と苦々しげに悪態をつく。 突然の葬儀は、普段伏せられていた問題を顕在化させ、一族の先行きを懸念する声を大きくした。私がそれとなく二階に上がったのも、正直居づらかったからだ。 「仕方ないよ…お義父さんもお義母さんも今放心状態だから。実際、河野さんが色々手配してくれたお陰で助かっているし…」 「でも誰が何と言っても、私は絶対あんな奴とは結婚しないから!」 息巻く彼女を私は宥めながら、大広間に設置した祭壇に向かった。
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