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序章
私は今夜、この夜空を照らす稲光りに似た冷たい瞳をした男に抱かれる。
男は怖い位の美貌。
ガーデンパーティ形式の私達の披露宴は、宴半ばで天候が急変した。厚い雲が空全体を覆い、直ぐに風と雨が強くなりそうな気配に満ちた。
急ぎ、会場を室内に移し続行する。想定内の事で滞りなかったが、私の心は落ち着かなかった。
お開きになる頃には、全ての輪郭がくっきりと浮かびあがる稲光りが生じ始めていた。
客の大半は不穏な空を見上げ、自らの帰路を心配した。その中に夫婦の契りをこんな荒れた夜に結ぶ新婦の気持ちを、僅かでもおもんばかる人は居ただろうか?
暗闇で静かに私を探る彼の指先。
耳に届く彼の呼吸は、どこまでも規則正しい。反対に私の心臓は早鐘を打っている。生まれて初めての情事に、乱れた吐息がもれる。
悔しいからその瞳を見返しても、無表情な新郎から初夜を迎える悦びは感じ取れない。彼はただ、私の反応を試しているだけなのか?
私達の結婚は、心踊るような恋愛期間を過ごす事なく至った。
事前に体の相性を試すなんてもっての他。
新郎の宮代家は厳しい仕来りがあり、婚姻後、相手に貞操を捧げると決まっていた。
その事は、彼の妹から聞いた。
「全く古くさい習わしよね」
彼女はせせら笑い、
「初めてかなんて男は証拠がないから不公平よね?義姉さん」
と口を尖らした。
…ホント不公平。
自分は息一つ荒げる事なく私を喘がせ、挿入する彼。
スイートルームの準備された快適な空調に、二人分の体温と湿度が足される。
稲妻が暴く彼の表情。その冴えた視線に犯された。
ゆっくりとした腰つきが彼の慈悲だったとしても、私は破瓜の痛みに悲鳴をあげた。
雷鳴にかき消され、思わずしがみついた彼の肩越しの夜空は、私の気持ちを代弁していた。
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