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 アランは、私の義弟だ。領主の跡取り娘にも関わらず、いまいち領主に向いていない私の代わりに跡継ぎとして遠縁から引き取られてきた。落ちこぼれていた私とは対照的に、優秀過ぎたアランは生家で浮きこぼれていたらしい。人間社会、複雑すぎ。  一人っ子の私は、そんなアランのことを猫可愛がりしてきた。やっとできた待望の弟をこれでもかと構い倒したのだ。  その甲斐あって、すっかり心を開いてくれたと思っていたのに、ある日突然「鬱陶しいから離れていただけますか? 義姉上」なんて吐き捨てられたのだから、男の子は難しい。  朝晩の食事からお風呂までせっせとお世話したのに。私と一緒じゃないと眠れないって泣きべそをかいていたじゃないの。何がいけなかったのかしら。  私のことを「ねーね」ではなく、「義姉上」だなんて呼び始めたときには、「あらあら、アランったらもうこんなに大きくなって。お祝いをしなくちゃね」なんて親戚のおばちゃんっぽいことを言いながら、焦げた手作りケーキを食べさせたから?  周囲に男の子にはいろいろと事情があると聞かされて、「お姉ちゃん、ベッドの下とか漁ったりしないから安心してね!」とか宣言したら、うっかりすっころんで、ベッド下に置かれていたものを目撃しちゃったから?  あれ、反省点が多いような……。いや、うん、気にしたら負けだ。  そんな私たちの仲が決定的に悪くなったのは、アランにお見合いの話が来はじめてから。 「アランの結婚式は、とっても素敵なものになるように飾り付け用のお花もたくさん用意するからね! 可愛いお嫁さんが来るの、今から楽しみ!」 「義姉上に結婚を祝われるなんて寒気がします。あなたが式場の花を準備する必要なんてありません。二度とそんなことは口にしないでください」 『花の一本も咲かせられないくせに』  アランはそんなことは言わなかったけれど、私の劣等感を刺激するには十分だった。『家族』でいられないなら、自分から家を出ていこうと決めたのはそのとき。残念ながら嫁入り先を見つけることができなくて、婿探しをする羽目になっちゃったけれど。  それにしてもお父さまったら、跡取り息子の辺境行きをよく許したものね。私が家を出るときには、理由をつけて阻止しようとしていたのに。まったく、可愛い息子には甘いんだから。  今の塩対応なアランも嫌いじゃないけれど、昔みたいに仲良くできたらいいのに……。
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