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「なんというかしら、こんなに好き勝手にハゲ散らかした土地というのも珍しいわね」 「ひとの頭を見ながら、変な単語を発しないでください。鏡を見るのが不安になります」 「大丈夫、美形なら髪がなくてもカッコいいから! 薄くなったら、変に頑張らずに思い切りよく剃っちゃってね!」  夜営を繰り返したどり着いた場所は、清々しいほど「不毛の地」だった。  それでも周辺には、いくつかの集落が出来上がっている。少しずつ開拓と緑化を進めているらしい。かつてに比べれば、ひとも増え賑やかになったのだそうだ。  開拓団としてやってきた屈強な男たちもすでにこの土地の状況については知っていたようで、みな思い思いの場所で荷ほどきを始めた。うん、あの生命力がたまらないわね! 「義姉上、ああいうのが好みなんですか?」 「は? 雑草魂って感じで、なかなか死ななそうで安心してるのよ」 「義姉上って、そういうひとでしたよね」  それにしても、「緑の手」の加護でもどうしようもない土地なんてあるのだろうか。このかたく干からびた土地を見ると、私はなんだか我が家に来たばかりの野良犬みたいなアランを思い出す。もう誰も信じないと睨み付けてきた小さな子どものことを。 「これだけ固くて岩だらけの土だと、植物が芽吹くのも大変よね」 「義姉上、そんなにむやみに歩くと……」 「いでっ」 「顔から転ばずによかったですね」 「ううう、いだひ」  尻もちをついた拍子に、尾てい骨を直撃したわよ。何よ、痛すぎてお尻がびりびりするわ。これ、絶対に青あざになるわね。ひいこら言いながら進んでも、その先に広がるのは荒野だけ。 「雨は降らないのかしら」 「この雰囲気では、降水量も少ないのかもしれません。近くに川も見当たりませんし、木々が育つにはそもそも過酷な環境なのでしょう」 「そう……」  見渡す限りの荒れ地。風に乗った種が辿り着いたところで、根を生やすことすら難しいのかしら。  だからこそ、ようやく小さな緑を見つけたときにはついにこにこしながら、撫でまくってしまった。だって柔らかい緑色は、アランの瞳の色にそっくりだったから。 「まあ、可愛らしい葉っぱね。大きくなるといいわね」 「義姉上!」 「やだ、どうしよう、さ、さわっちゃったわ! く、腐っちゃう! この土地の貴重な植物が! ダメ、いや、元気に育ってええええ!!!」  めき 「は?」  めきめきめきめき 「ちょ、ちょっとどうなってるの!」 「これは……」 「何よ!」 「いや、壮観ですね」  先ほどまでちょこんと芽を出していたはずが、すっかりこの土地の主だと言わんばかりの顔でそびえ立っていた。 「まさか、これが世界樹ってやつ?」 「見る限り、おそらく樫の樹です」 「私を歓迎してくれているのね。もう、大好き。私を受け入れてくれたこの土地が大好き! みんな、愛してるわ!」 「樹の幹や土に頬ずりするまではいいですが、口づけはしないでくださいね。お腹を壊してもしりませんよ」  ぽこぽこぽこぽこ  空から雨のようにどんぐりが降ってきた。 「わあ、すごい! どんぐりって食べられるそうだし、楽しみねえ」 「なんでいきなり実がなるんですか……」 「いいじゃない。歓迎されているのよ!」 「義姉上の能天気なポジテイブ思考が羨ましいです」  そんなこんなで大騒ぎしながら眠った翌日。ハゲ散らかしていた荒地は、青々とした豊かな森になっていた。
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