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「高見、ちょっといいかしら」
廊下ですれ違った担任に引き留められてしまった。あまり人の通らない、倉庫の裏手に連れて行かれる。
「お願い。あんまりわたし困らせないで」
担任の声は、随分と気弱だった。
「わたしだってただの人間なのよ……。別に、家出したっていいと思うの。でもそれをわけの分からないこと言ってごまかすなんて」
遠くから生徒と教師の笑い声が聞こえる。空っぽの活気に満ちた空っぽの学校。空っぽの人間で溢れた空っぽの校舎。
「わたし、そんなに馬鹿にされてたんですか。先生がただの人間だってことぐらい知ってますよ」
わざとらしくうらみがましく、そして心の中は空っぽのままそう言うと、担任が目を伏せた。
「それに、家出してるのは親ですもの」
「……だから、そういうわけのわからないこと言わないでちょうだい」
担任の顔が少しだけ厳しくなる。
「いいですよ。あなたに信じてもらえなくても全然痛くもかゆくもないです。わたしそろそろ行きますね」
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