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新宿の高層ビルが建ち並びネオンが眩しいメイン通りは、週末の金曜日ということもあって大勢の人々が行き交っている。 仕事を終えたらしいグループが各々お目当ての店へと吸い込まれていき、その向かいの道端では若い男女が大きな声で会話を楽しみ笑い合う。 そんな賑やかなメイン通りから少し外れた街の一角に、ビルの向こう側への近道となっている路地があった。 まるで誰も存在を知らないのか、そこを抜ける者はひとりも居ない。 細い路地を抜けて一本裏の通りに出れば、表の喧騒から切り離された静かな通りへと出ると、目の前の道をポツポツ数える程度の人が家路へと向かっている。 そんな街灯だけの薄暗い道を挟んだ向こうにそれはあった。 まるで周囲から存在を消されたかのような(たたず)まいのその古い(ほこら)は、知らない人間ならばそのまま見向きもせず通り過ぎてしまうほどに存在感がない。 古いとはいえ立派な造りだけにきちんと垣根で囲われており、立派な楠木(くすのき)がまるで祠を守るようにして立っていた。 突然吹いた春の風に木が揺れると、それが思いの外大きな葉音を立てた。 そこを偶然通り掛かった青年は葉音に驚くと同時に祠の存在に気がつくと、なにやら怖くなったのか急ぎ足でその場を通り過ぎて行った。 その後から来た若い女も祠に気づくと小走りで抜けて行き、通りはパタリと誰も居なくなる。
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