1人が本棚に入れています
本棚に追加
トランス・ペイン
「どうしたの、アヤメ。何をそんなに泣いているの?」
「さっきこけて、ケガしちゃって……」
わたしはナツメに、擦りむいた膝を見せた。赤い血が滲んで、陽射しを受けてきらきら、でも痛い、痛い、痛い……。
ナツメの顔になんだか元気がないような気もしたけれど、そんなのどうでもいいと思ってしまうぐらい。
「よしよし、ほら僕と手を繋いで?」
差し出された手を握ると、ナツメも柔らかくわたしの手を握り返してくれた。
不思議と、すーっと膝の痛みが引いていく。
「あれ、もう痛くない……」
そう言い終える前に、なぜだか突然悲しくなった。理由は全くわからない、得体の知れない悲しみが胸の中を満たしていく。
ナツメは顔を少し歪めて、けれどすぐに朗らかな表情で言った。
「それはよかったよ」
それ以来、わたしは怪我をするたびにナツメと手を繋いだ。いつもすぐに痛みは綺麗さっぱり消えてしまった。そのたびにわけもなく、なんだか悲しくなった。
そしていつも、ナツメの暗い表情は少し歪んでからすぐに、朗らかで柔らかな笑顔に変わった。
最初のコメントを投稿しよう!