トランス・ペイン

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トランス・ペイン

「どうしたの、アヤメ。何をそんなに泣いているの?」 「さっきこけて、ケガしちゃって……」  わたしはナツメに、擦りむいた膝を見せた。赤い血が滲んで、陽射しを受けてきらきら、でも痛い、痛い、痛い……。  ナツメの顔になんだか元気がないような気もしたけれど、そんなのどうでもいいと思ってしまうぐらい。 「よしよし、ほら僕と手を繋いで?」  差し出された手を握ると、ナツメも柔らかくわたしの手を握り返してくれた。  不思議と、すーっと膝の痛みが引いていく。 「あれ、もう痛くない……」  そう言い終える前に、なぜだか突然悲しくなった。理由は全くわからない、得体の知れない悲しみが胸の中を満たしていく。  ナツメは顔を少し歪めて、けれどすぐに朗らかな表情で言った。 「それはよかったよ」  それ以来、わたしは怪我をするたびにナツメと手を繋いだ。いつもすぐに痛みは綺麗さっぱり消えてしまった。そのたびにわけもなく、なんだか悲しくなった。  そしていつも、ナツメの暗い表情は少し歪んでからすぐに、朗らかで柔らかな笑顔に変わった。
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