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バッタ
バッタが折れそうな後ろ足を目一杯開脚させ、飛ぼうとしたままじっとしている。
俺は気持ち悪いと思った。周りはすごいだの、子ども達は大きいだの小さいだのと目を輝かせ歓声を上げている。
大人の俺は今にでも飛ぼうと構える目前の大きいバッタが気持ち悪くて仕方がない。よく周りを見渡せば、中には俺のように気持ち悪いと悲鳴をあげるやつもいるだろう。いや、こんなやつが大概さ。
その胴体が、肢体が、触覚が大きければ大きいほど気持ちの悪いものはない。
俺の嫌いなやつらはじっと飛ぼうとしている。いつ飛ぶんだと気が気じゃない。
俺はお前らになれないから気持ち悪い。思わず涙が溢れちまうと、バッタが目前に飛ぶ込んできて咄嗟に手で払いのけた。
やめてくれ、気持ち悪い。俺はお前らなんかに慰めれたくない。気持ち悪いだけだ。どうせなら胸がでかいふくよかな女に抱きしめられて眠りたい。
ある日バッタが潰れていた。アルファルトに焼かれて潰れていた。
その姿が気持ち悪いと、周りは避けていた。苦虫を噛み潰したようにへの字に顔を歪ませて避けていた。
ぽつんと潰れたその姿に俺はまた泣いた。
ああ、コイツは飛べなかったんだ。最期まで飛べなかったんだ。周りに気持ちがられたまま死んじまったんだ。
どだい俺じゃ変われないのに。飛べないのに生きているのに。なんと恨めしいことか。悔しいことか。
願わくば、綺麗なままで死んでくれ。緑の躰に汚れ一つないまま、傷つかないまま、ころっと死んでくれ。
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