序章ー呪われている、悉くー

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つまらない話をしよう。 どうしようもなく、くだらない話をしよう。 生命を授かり、その道程の狭間に人生という物を二度も演じながら失う事しか知らない男の、一笑に付してしまう程滑稽で、堕落的で、喜劇に満ちた怠惰な話をしよう。 物語は、日本に生まれた頃から始まる。 俺、『木透(きすき) 明人(あきと)』はごく一般的な、裕福とも貧困とも言えない中流的な家庭に生まれた。 優しい両親と三つ上の姉に愛され、普遍的な価値基準で幸福な人生を謳歌するはずだった。 その未定たる予定が崩壊を始めたのは、俺が齢を八とした頃だったか。 交通事故だった。 両親と姉、それから俺を乗せた車は、居眠り運転をしていたトラックが道路の中央線を跨いで向かって来た事により正面衝突。 本来であれば全員が即死する程の事故だったらしい。 らしいというのは、俺が良く覚えていないからだ。 運が良いのか悪いのか、俺だけはかすり傷で済んだ。 その理由の一端として、姉が俺を守るように覆い被さっていたと聞いた。 車の前半分は潰れて両親は即死、姉は病院に運ばれ間もなく亡くなったそうだ。 俺だけが生き残った。 『奇跡の子』。 そんなタイトルでニュースにも少し乗ったらしいが、当時の事は本当にあまり覚えていない。 一つだけハッキリと覚えているのは、「生きて」という姉のか細い言葉だけだった。 そこからだ。 俺の人生が歪み始めたのは。 父の兄、つまり伯父に引き取られた俺は、残された境遇から子供ながらにかなりの気を遣われているのが分かった。 伯父夫婦には子供が居なかった事もあり、大切にされたのかもしれない。 しかし、その生活も長くは続かなかった。 俺が九歳になって直ぐの事、深夜遅く家に強盗が押し入り、抵抗をした伯父夫婦は揃って殺害された。 人を殺して焦りを抱いていたのか、強盗は二階の子供部屋で寝ていた俺に気付かず逃走。 物音に目を覚ました俺は、暗闇の中一階へと降りた。 既に強盗の姿は無かったが、一階に転がった伯父夫婦の事は今でも鮮明に焼き付いている。 ほんの僅かに息のあった伯父が、俺を見て「生きろ」と呟いたのも忘れられない。 俺は伯父と仲の良かった隣の家へと駆け込み、その人の通報により強盗は直ぐに逮捕された。 また、俺だけが生き残った。 一年程で二度も生命の危機に遭遇し、生き残った俺は気味悪がられた。 当然だと思う。 親戚連中が引き取り手に迷っていると、母方の祖父が俺を「育てる」と言った。
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