序章ー呪われている、悉くー

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正直、驚きはあった。 何故なら、俺が母方の祖父に会うのはそれが初めてだったからだ。 祖母は既に他界していて、一人で暮らしていると話は聞いていた。 赤子の時にもしかしたら会っているのかもしれないが、少なくとも俺に記憶は無かった。 引き取られて初日、よそよそしい俺に祖父が言った。 「お前は何も悪くない。子供は子供らしくあれば良い」 子供故に言葉を深く捉えはしなかったが、祖父のその言葉に俺は救われた気がした。 頑固者と聞いていたのとは違い、祖父はとても優しかった。 そんな祖父に少しでも恩返しがしたいと、俺は子供ながらに自分に出来る事は何でもした。 家事の手伝いから、料理も出来るだけ覚えて、少しでも祖父が楽を出来るようにと勤しんだ。 祖父には「そんな事はしなくても良い」と言われたが、俺はやり続けた。 家事をこなす俺を祖父は良く誉めてくれた。 祖父に誉められるのが、俺は何よりも嬉しかった。 そんな日常が流れて二年、俺が11歳になった頃の事だ。 当時、唯一の趣味として本を好んでいた俺は、祖父からの小遣いで本を買おうと学校の帰りに本屋に立ち寄った。 いつもなら目的の本を買って直ぐに帰宅するはずだったが、その日は欲しい本が複数あって、しばらく悩んでしまった。 少し遅くなってしまったと急いで帰った俺を待っていたのは、居間で倒れている祖父だった。 俺は家の電話で直ぐに救急車を呼んだ。 救急車が到着するまで、俺は祖父の傍で名を呼びながら揺さぶり、泣きわめいていた。 俺が買う本に悩まなければ。 そもそも本屋に寄らなければ。 様々な思考が脳を支配して、クラクラと視界が揺れていたのを覚えている。 思えば、人が死ぬという事を理解し、怖がっていたのはあれが初めてだったと思う。 結局祖父は助からなかった。 ただ、救急車に運ばれている途中で、一度だけ息を吹き返した。 傍に座る俺の手を強く握り、頻りに「お前は悪くない」と言っていた。 祖父が亡くなってから、俺は親戚をたらい回しにされる事になる。 その理由は単純だった。 俺を引き取った親戚の誰かが、事故に合って大怪我をしたり、最悪の場合は命を落としたりと、不幸が続いたからだ。 誰もが気味悪がり、奇異の眼差しで俺を見た。 そうして数年が経過し、高校に上がる頃には、俺は親戚連中から陰口のようにこう呼ばれていた。 『呪われた子』。 壮絶な事故から生還し、『奇跡の子』と呼ばれた少年は、数年の時を経て『呪われた子』へと堕落していた。
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