序章ー呪われている、悉くー

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『呪い』。 意味が分からなかった。 俺は確かに不運に近い存在なのかもしれない。 俺ではない誰かが傷付き、命を無くしていく。 そんな自分の境遇が嫌いだったし、生まれた事を憎んだ事もある。 けれども、じゃあ、誰が俺を『呪う』というのだろうか。 『呪われた子』だと言うが、一体何の目的があって俺を『呪う』というのだろうか。 悪さをした覚えなど毛頭ないし、恨みを買うような経験も皆無だ。 そんな俺を、一体誰が『呪う』というのだろうか。 身に覚えのない事で周囲から軽蔑され、侮蔑され、孤立していった。 俺はそんな周囲の視線に耐え兼ねて、全てを投げ出そうとした時があった。 まだ子供の俺にとって、世界はそこだけなのだから、当然の事だろう。 自分のみが悪いのだから、自分が消えてしまえば良いと思った。 自殺。 その選択肢を、俺は簡単に選ぼうとした。 今思えば、迷惑をかけないよう自分を殺そうとしたその行為そのものが、迷惑行為であった。 けれども子供の俺には、それが一番の方法だと思ったんだ。 夜更けに人の来ない山の中へと入り、手頃な木にロープを結んで、いざそこに首をかけようとした時だった。 「生きて」と姉の言葉が聞こえた気がした。 次には伯父の、「生きろ」という言葉。 戸惑いが躊躇わせた。 ロープを握る手が震えて、どうしようも動けなくなった。 その時に聞こえたのは、「お前は悪くない」という祖父の言葉だった。 あぁ、そうか。 俺は悪くないのか。 そう思った瞬間、俺は泣いていた。 人の居ない山奥で、声を大にして喚いた。 何もかもが『呪い』だ。 俺を引き取ってくれた優しい人達が傷付くのも、自殺という安易なドロップアウトを許さない姉達の言葉も。 俺の人生そのものが"呪われている"のだ。 じゃあ、どうすれば良い。 どう生きれば、この『呪い』から解放される。 一晩中泣きわめきながら俺は、山の中で考え込んでいた。 そうして日が昇り始める頃に、漸く答えの一端に辿り着いた。 それは、『呪い』の正体。 俺に近い人間、俺と"繋がり"のある人間に災いが振りかかる。 その思考に至った時、俺が歩むべき道が見えた。 俺と"繋がり"を持った人間が傷付くのならば、それを元から絶てば良い。 簡単な事。 俺が周囲から断絶され、断絶し、本当の意味で孤立してしまえば良い。 そうすれば誰も傷付かず、もう誰かが死ぬのを見なくて済む。 その答えに辿り着いたら、何故か少し楽になった。 そうしよう。 そうやって、一人で生きていこう。 それがあるかも分からない『呪い』に対抗する最善手だと思えた。 そうして俺が孤独になるべく生き始めた頃、細かく言えば自殺未遂から約一年後、俺は事故に巻き込まれて命を落とした。
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