序章ー呪われている、悉くー

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父と母はとても優しかった。 一人息子である俺を大切に育ててくれた。 貧しい家ではあったが、俺は久しく幸福に満ち溢れていた。 こんな幸せでいて良いのだろうか。 そんな事を幾度も不安と共に考える程、幸せだった。 父と母は、俺がまだ赤子で言葉を介さないから、分からないと思ったのだろう。 俺の前で家の事情について良く話していた。 母は元々、貴族令嬢だったそうだ。 簡単な話、父と駆け落ちしたのだ。 平民である父との恋路を叶えるには、それしか道が無かったらしい。 そんな話を聞かされた俺は、正直直ぐに別れるのではと思った。 金銭感覚や価値観の相違で恋仲は破綻すると相場は決まっている。 普遍的にはそうだ。 そんな俺の不安とは裏腹に、俺が10歳になるまで別れる事は無かった。 何故10歳までと言ったか。 俺が自分の二度目の人生を恨むきっかけになったのが、この頃だからだ。 先ず、父が死んだ。 冒険者を生業としていた父は、呆気なく死んだ。 訃報はその日の夜、父の亡骸と共に『ギルド』と呼ばれる冒険者が登録する組織の人間が伝えに来た。 泣きわめく母の隣で、俺も大粒の涙を流したのを覚えている。 あぁ、またか。 また、大切な人を失った。 俺は何も出来ない。 ただ、失うだけなんだ。 それからの母は、意気消沈したように生活していた。 貧しい生活だったのもあり、貯金は直ぐに底をついた。 そんな折り、母が夜に出掛けるようになった。 夜になると出掛け、朝方に帰ってくる。 子供ではあるが、一度は16歳まで生きた人間だ。 母が何をしているかは何とはなしに理解していた。 働いてくれる母の為、家事は俺がやるようにした。 料理は前の世界でもやっていたし、母のやり方を見ていて覚えた。 母は良く手伝いをする俺を喜んでくれた。 そんな生活が続いて、俺が13歳になった頃、またも悲劇が訪れる。 考えれば至極当然で、それまで無かったのは運が良かったのかもしれない。 家に、強盗が押し入った。 母一人子一人の家で何を盗むものがあろうかと思ったが、色々と不運が重なった。 その日母は休みで、家でゆっくり寝ようとしていた。 そんな寝込みに強盗が押し入ったのである。 家には誰も居ないと思っていたのか、強盗は酷く驚いた様子だった。 母は俺を庇い、目の前で強盗に刺された。 衝撃的映像だ。 普通の子供なら、泣きわめくしか出来なかっただろう。 だが俺の思考は違っていた。 またか。 また、失うのか。 何も出来ない己に嫌気がさす。 守られるばかりで、失う事しか知らない己を嫌悪する。 そんな思考の最中で、唐突に発現した。 そう、異世界転生ものにありがちな、チート能力だ。 目の前で倒れていく母の目を見ていた俺。 母の口が、「生きて」と動いた時に、突然頭の中に降り注いできた。 その能力が己のもので、どう扱えるかが理解できた。 笑ってくれ。 その全てを失って漸く俺に宿ったそれは、守るべき存在を失って初めて俺に発現したそれは、『呪い』だった。
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