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俺は立ち上がると、母を殺して動揺している強盗の男の衣服に触れた。
男は驚いた顔をして俺を見下ろしていたが、突然に苦しみ出す。
目や口、鼻や耳といった穴から血を吹き出して、数秒苦しみ悶えると絶命して倒れた。
俺は暫く男を見下ろしていたが、直ぐに母へと視線を移す。
母は目を開いたまま死んでいた。
俺は静かに母の傍にしゃがむと、その目をそっと閉じた。
涙が頬を伝い、己の手の甲へと落ちた。
何だこれは。
一体何なんだ。
こんな力、いらない。
お願いだから、母を返してくれ。
お願いだから、父を返してくれ。
お願いだから、前の世界の祖父を、伯父夫婦を、父を、母を、大好きな姉を返してくれ。
お願いだから、俺の人生を返してくれ。
涙は止まらなかった。
泣き、喚き、慟哭を憚らずに散らした。
どうしてこうなった。
何故失わなければならなかった。
理由は単純だ。
俺という存在。
俺は世界の壁を越えてまでも、『呪われた子』だったという話だ。
あのくそったれな『呪い』からは、どう足掻いた所で逃げられないのだ。
そうか。
逃げられないのならば、そのルールの範疇で生きれば良い。
誰かと繋がりを持って、『呪い』により失わなければならないのなら、最初から持たなければ良い。
そうして生きていけば、『呪い』で誰かが苦しむ姿を見なくて済む。
結論はそれだ。
俺は母の亡骸を抱き上げると、強く抱き締めた。
涙はまだ枯れない。
こうしていても、きっと涙は止まらないだろう。
「ごめんな。ごめんな。母さん」
震える声で母の亡骸に言った。
どれくらいの時間母を抱き締めていたか分からないけれど、暫くして俺は母をベッドの上に寝かせた。
家を出よう。
誰も俺を知らない場所で、誰とも繋がりを持たずに生きよう。
振り向いた俺の足元に、強盗の死体が転がっている。
俺はしばしそいつを見下ろしていた。
そいつが着ている真っ黒なローブを剥ぎ取り、自分が羽織る。
これは戒めだ。
この瞬間を、決意を持った今日という日を忘れない為の戒めだ。
俺は旅支度を一つのリュックに納めると、ベッドに横たわる母の傍に寄る。
静かにその頬を撫でた。
「さよなら、母さん。今までありがとう」
言葉を残して俺は背を向ける。
そうして家から出ると、振り返って玄関の扉を見つめた。
この家が町から離れた所にあって良かった。
扉に触れると、何もないそこから火が放たれた。
火は瞬く間に広がり、家を燃やす。
涙はもう枯れていた。
暫く燃える家を見つめていたが、俺は直ぐに歩きだした。
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