12人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「なんなのよ、これは」
ママの手の中にあるのは、昨日完成したばかりのあたしの漫画原稿だ。
愛読しているコミック雑誌の新人賞。
大賞を獲れたら賞金と、雑誌掲載が確約されていて、ゆくゆくはデビューも夢じゃない。
漫画家を目指す者たちの登竜門的コンテストだ。
その賞に応募するため、あたしは何か月も前から構想を練っていた。
そして何度も書き直した作品が昨日ようやく完成したのだ。
「返してよ」
「勉強してるかと思ってたのに、こんなもの描いてたの?」
「勉強だってちゃんとしてるよ、期末までまだ三週間あるし」
「三週間しかないのよ、これ以上成績が下がったら……」
「とにかく、返してよ」
「まさか応募するんじゃないでしょうね」
「まさかってなによ」
「無謀だって言ってるのよ、こんな……」
あたしはカッと顔が熱くなるのを感じた。
チャレンジする前から全否定された気がした。
気が付くと、あたしは家を飛び出していた。
「待ちなさい! ユカリ」
ママの声が閉まるドアから響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!