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「なんなのよ、これは」  ママの手の中にあるのは、昨日完成したばかりのあたしの漫画原稿だ。  愛読しているコミック雑誌の新人賞。  大賞を獲れたら賞金と、雑誌掲載が確約されていて、ゆくゆくはデビューも夢じゃない。  漫画家を目指す者たちの登竜門的コンテストだ。  その賞に応募するため、あたしは何か月も前から構想を練っていた。  そして何度も書き直した作品が昨日ようやく完成したのだ。 「返してよ」 「勉強してるかと思ってたのに、こんなもの描いてたの?」 「勉強だってちゃんとしてるよ、期末までまだ三週間あるし」 「三週間しかないのよ、これ以上成績が下がったら……」 「とにかく、返してよ」 「まさか応募するんじゃないでしょうね」 「まさかってなによ」 「無謀だって言ってるのよ、こんな……」  あたしはカッと顔が熱くなるのを感じた。  チャレンジする前から全否定された気がした。  気が付くと、あたしは家を飛び出していた。 「待ちなさい! ユカリ」  ママの声が閉まるドアから響いていた。
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