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そして、僕は待てと言ったんだ。
君は僕が書いた小説の出だしを読んで上目遣いで僕を見た。椅子に座り足を組む君の前で僕は気をつけをしていた。
君はペラペラと原稿用紙を読んで、多分最後まで読んでから僕が書いた十枚の原稿用紙を机にそっと置く。
「駄目ね。接続詞が多過ぎる。一言で言うと冗長。クドいのよ」
「でも部長は接続詞を練習しろと言ったじゃないですか?」
君はじろりと僕の顔を伺う。その視線で睨まれると弱い。部長だからなのか、部員に厳しく振る舞っているようだが、拭えない小動物属性を君は隠せない。
君目当てでこの文芸部に入部してくる野郎は後を立たないし、僕だってその野郎の一人だ。
「多用しろってことじゃないのよ。接続詞を効果的に使いなさいってことなのよ。お分かり? 若松くん? やり直しよ」
机に置いた原稿用紙を僕の胸に押し付けて部室を出て行った。本当は小説を書くつもりなんてなかった。君が小説投稿サイトで受賞したときは幼馴染みとして素直に嬉しかったのに、君は僕を置き去りにするように生き急ぐ。君の側にまたいたいからと文芸部に入部した。僕を待っていたのはあだ名で呼び合った幼馴染みの関係ではなく、部長と呼び若松くんと呼ばれる上下関係だった。
文芸部で体育会系なんて似合わないのに……。
僕は原稿用紙をまとめて鞄に詰める。
君は文才があるよ。そう言われたのはいつだっけ? 君が僕の書く物語を楽しみに読んでくれたのはいつだっけ? あの頃は楽しかったはずなのに。
部長は特別指導と称して、僕だけに個別に小説を書かせる。文化祭で部員の作品集を売るのだと言って部員全員に原稿用紙十枚の小説を書かせている。
大体が誤字脱字のチェックで終わっているというのに僕だけに何回も書き直しをさせるのだ。正直、僕に文才なんかない。君が喜んでくれていたから物語を書いていただけだ。今の僕と君じゃ君のほうがずっと面白い物語を書く。文芸部に入部したのだって、君と一緒の時間を共有したかっただけなのに。
帰り道の十月の夕日は、なぜかもの悲しげに見える。まるで僕の心のうちを見透かしているかのようだ。僕はこのままずっと君に想いを伝えられぬまま年老いていくのだろうか? それができなくとも君の隣に立つのに相応しいくらいにはなりたい。そうでなければ君がどんどんと遠くなってしまう。
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