誘い

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誘い

前作『桐箱』よりの続きです。 https://estar.jp/novels/25884862 「窪田」久我山が指さす車窓を見た。  ゆっくりと後ろに流れて行ったのは国会議事堂だった。  元上官の久我山に呼ばれた窪田健介は、仔細を問う間もなく車に乗せられた。 「はい」 「どう思った」  民自党が打ち出した政策のことだろうと察しがつく。衆目(しゅうもく)を集めている『人口抑制策』だ。 a45e2d7b-2fde-4dff-9eb9-2684a4a4bc29 「お呼びになったのは、一機動隊員に過ぎない私の意見を聞くためではない。そうですよね」  久我山は銃乱射の人質籠城事件で負傷し、現役を退いた。今も少し左足を引きずる。 「お前も知っての通り、うちの長男は高校生。扱いにくくなった長女は中学生……」久我山がふっと苦笑いを浮かべた。 「一番下の次女はまだ小学三年生だ。お前のところはまだ小さかったな。英斗君と……」 「美毬(みまり)です。もしや潰しにかかるおつもりで?」  前を向いた久我山は無言だった。体格では人に劣らぬ窪田だったが、隣に座る、岩のような久我山の圧は並ではない。 「現場の指揮官が欲しい。お前と俺の仲だ。多くは言わん」 「現場と口にするからには、戦うつもりですね。勝ち目はあるんですか」 「やってみなければわからん。勝ち目があるならやるのか? なければやらないのか? お前らしくもない言葉だ」 「いえ、そういうつもりでは……」 「やるかやらぬかの二択だ。断ることに言い訳は無用。聞かなかったことにしてくれればいい」  銃器レンジャーを束ねた久我山の度量なら、どんな組織でも統率できるだろう。妻の美織の柔らかな笑顔が浮かんだ。英斗と美毬の無邪気な顔が思い浮かぶ。人口抑制策施行まであと一年。  大きく息を吸い、強く吐く息で頷いた。 「私で力になれるなら」
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