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新党小鳩組
民自党が掲げた政策に、野党は無論のこと、あらゆるメディア、経済団体、市民団体から反発が出たがブレーキがかかることはなかった。人口爆発は日本国家の存続すら危うくする深刻な状況であったからだ。
あくまで一時的な措置であり、未来永劫続く法案ではない。民自党の対応は木で鼻を括るがごとくであった。しかし、問題はそこではない。いま存在する我が子を生贄にすることはできない。国民は声を大きくする。元はといえば『少子化防止策』のせいではないかと。
一方、この政策を支持したのは若年層だった。妻子を持たず、正規雇用のない若者たち。彼らが暴動を起こすのではないかと危惧する見方さえあった。
ただちに国民投票に委ねるべし。『新党小鳩組』の提言が受け入れられることはなかった。
20××年、憲法九条改正に伴い、自衛隊から名称を変えた『国防軍』を成立させた能見野信三は、小心者にありがちな独裁者気取りだった。
抑えに回るべき阿相次郎も同じ穴の狢だった。国民目線とはほど遠いピントのズレた発言を、曲がった口から垂れ流した。
そこで秘かに結成されたのが、警視庁第七機動隊出身の久我山を核とした、政府転覆を図る組織『国民防衛隊』だ。
野党にも水面下で働きかけたが、クーデターの後ろ盾となれば、不首尾に終わった場合責任は免れない。それを恐れた野党第一党『新民主党』の動きに他の野党も足並みをそろえた。
政治家は特例措置が取られるだろうと高をくくったのか、あるいはひそかに言質が取れたのか、事実は闇の中だった。
唯一賛意を示したのは、国民投票を訴えたわずか二十名足らずの弱小政党『新党小鳩組』だけだった。盤石とはいえないながらも、成功後は彼らに政権を担ってもらうよりほかない。決行の日、本会議は小鳩組全員が欠席をして議員会館で待機する手はずは整っていた。
クーデター後は政策の発表と速やかな実施が急務となるが、幸い小鳩組は、揚げ足取りに終始する他の野党とは一線を画していた。党首の鳩村は、かつて国民を失望させ、世界に恥を晒した二枚舌政治家の血を引くとは思えないほどの好漢だった。
国民防衛隊が戦う相手は警察組織。動きを察知される前に一気に片をつける。しかし国防軍が鎮圧に動けば万に一つの勝ち目もない。
「菅山か?」陸将室に久我山の声が響く。
「今聞いた。どうなっている」
窪田は端末を握る久我山の顔を息を呑んで見守った。
「それはどういうことだ」久我山の表情がいよいよ険しくなる。
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