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市場国防大臣
「窪田」
端末を置いた久我山が、言葉を探すように口を引き結び、組んだ手に鼻先を寄せた。
「はい」
「我々の動きが察知されたわけではないようだ。規模の程度はわからんが国防大臣が政権に反旗を翻すつもりらしい。しかし、陸海空各軍の説得調整のあいだに、陸上国防軍警務隊や公安警察、公安調査庁に感づかれては失敗する。国防軍を動かすのは大臣ではないからな。
知ってのとおり現在の国防軍は、前身の自衛隊と同じく日本国憲法体制下の中で動いている。彼らは内閣総理大臣の命令なしには一歩たりとも動けない」
「国防大臣といえば、市場魚次」
「そうだ。かつて自分が閣僚を務めた政権の総理総裁二人に辞意をもとめて、政界の冷や飯を食わされた市場茂流瑠の親族に当たる。海上国防軍にも働きかけをしているようだ」
「すべてをまとめきれなければ、下手をすると国防軍同士の戦いが……」
「いや、それは起こらんだろう。内戦など起してみろ、国力を落とした日本は国際法お構いなしの国の餌食になる。政治家もそこまで愚かではない。説得が無理だとわかれば国防大臣は手を引くだろう。
かといって一体となって軍が主導すれば軍事クーデターになる。軍は動かなければいい。我々の後ろ盾になってくれさえすれば……国防大臣と話がしたい。窪田、お前伝手はまだあるか」
「はい。しかし国防大臣までたどり着けるかは」
窪田の祖父は民自党の衆議院議員だった。総務大臣を二期務めたことがあるが、重鎮と呼ばれるほどの政治家ではなかった。
「構わん。当たってみてくれ、時間がない」
子供を二人持つ夫婦は離婚手続きをして子を分け合おうと話し合った。三人以上の子を持つ親は、自らの父母の養子にしようと画策した。成人は対象外であり発表された政策にそこまでの言及はなかったからである。しかし、あらゆるあがきは無駄になる可能性を孕んでいた。
『人口抑制策』発動まで一か月。
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