1人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
1. 発端 -1-
アナウンスの声がターミナルの中を響き渡り、様々な国から来た人間がその中を行きかう。今日も成田空港は活気づいていた。
その雑踏の中を剣持は一人の人物を探している。
今日、ロスから来るはずのFBIの捜査官だ。
顔は写真で何度も確認したから頭に入ってはいるが、それにしても人が多すぎる。剣持は見逃さないよう注意深くあたりを見渡した。
そのとき、剣持の肩をたたく者がいた。
振り返るとサングラスをかけた女性が立っている。
ネイビーのジャケットに同じ色のタイトなスカートをはいた黒髪の女性だ。
「剣持さんですか?」
流暢な日本語で尋ねられる。
「ミス・エッシェンバッハ?」
「YES《はい》」
女性は右手を差し出した。
剣持も右手を差出し、握手をした。
「車を用意しています。荷物はそれだけですか?」
女性の傍らにはスーツケースが一個だけあった。
「はい、必要なものは買いますのでご心配なく。」
にっこりと笑うその表情が魅惑的だった。
剣持は彼女のスーツケースを持つと、先にたって歩きはじめた。
最初のコメントを投稿しよう!