一 サダナーは不遇な王子

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一 サダナーは不遇な王子

 とある時代の、とある大陸の話である。その大陸は日本で言えば、丁度鎌倉時代と戦国時代を突き混ぜたような時勢を迎えていた。大小様々な国が治乱興亡を繰り広げ、剣で弓で殺し合い、それこそ力有る者は力に任せ、奸智に富む者は悪謀の限りを尽くし、欲望のままに争い、奪い合う事で日々の糧を得ていた。  近いところでは、大陸の中央に位置するゴロデリアという王国に内乱が起こり、その争いの中十万人にも及ぼうかという死者が出ていた。内乱の原因はお定まりの後継者争いであった。在世中の王死亡に伴い三人の子が王位を争って激しい戦いを繰り広げた後、次子のエレナという女人が女王として王座に就いたと言う。伝え聞くところによれば、天女の様に美しい女人であると言うが・・・・・・。  一方、そのゴロデリア王国から西方の彼方では、ボテクリマ帝国とフランシテル王国とが各々十万余の兵士を動員して決戦を行い、フランシテルがボテクリマに散々に撃ち破られて、亡国の瀬戸際に追い込まれると言う事態に陥っていた。  今回の物語は、そのフランシテル国の王宮における同国の国王フランスル二世と丞相コンメイとの会話から始まる。 「国王陛下。ボテクリマのスベッテン皇帝から降伏勧告の使者が訪れております。速やかに和戦の決断を戴かなければなりません。」  丞相コンメイは玉座に座すフランスル二世の六歩手前で片膝をつき、伏し目がちに言上に及んでいた。玉座のフランスル二世は四十五歳、その前で膝をついているコンメイも又同い年の四十五歳。フランスル二世が王位に就いたと同時に丞相に登ったコンメイとは十年来の仲であった。 「和戦と申すが、我等に戦う術は有るのか、コンメイ。」  フランスル二世は苦い顔でコンメイを睨み付けるようにして言った。どうも、コンメイに対して含むところが有るようだ。 「我が方の兵力は敗残兵三万、他方ボテクリマは会戦時の十万の兵がほとんど無傷の上、更に十五万を超える予備兵力を有しています。戦っても勝負になりません。この上は相手方の条件を呑んで講和する外無いものと。」  コンメイはひれ伏すようにして王の問いに答えた。 「そもそも、今回の戦はその方が勝目が有ると申すから行ったのだぞ。それが、むざむざ七万もの兵士を空しくして一方的な負け戦。どう責任を取るつもりなのだ、丞相。」  フランスル二世の憤懣の様子から見るに、ボテクリマとの戦いはコンメイに主導されたもののようだ。 「臣の不明の責はいずれ問うて戴きます事とて、一先ず今は敵との和平交渉を進めることを優先願いたく存じます。」 「ふむ、仕方有るまい。で、相手方の要求は。」  フランスル二世は歪めた顔のまま言った。ふん、と鼻から忌々しさを伝える息が漏れている。
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