一 サダナーは不遇な王子

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「殿下、最早王命降った後でございます。詰まらぬ愚痴はこぼされず、潔う任に着かれませ。人質の役は両国の和平の絆となる重要な役割でございます。」  守り役モッシュは噛んで含めるようにサダナーに言った。  がしかし、サダナーは不快げにそっぽを向いた。幼少の頃から仕えている守り役ではあるが、サダナーはこのモッシュから王子らしい敬意を払われた記憶が無い。事ある毎に、王の後継者はオーリンであるから、大それた野心を懐かぬように、目立つ事は為ぬようにと、大人しく静かに暮らす事ばかり強要されて来た記憶しかない。 「人質としてこの国を去る我に今更守り役も不要だな。モッシュ、たった今暇をくれてやる。とっとと去るが良い。」  サダナーは憎々しげに言った。 「殿下、人質は両国の和平を結ぶ重要な役、くれぐれも身勝手な振る舞いをして王国の民に苦しみを与えぬように願います。」  モッシュはおっ被せるようにサダナーに言うと背を向けて去って行った。 (勝手な事を。それほど重要な役なら、将来王の後継者となるオーリンを向かわせれば良いのだ。)  サダナーの不満は収まらない。  が、王命に逆らう事も叶わない。この世はままならぬものと、母なる人に別れを告げてボテクリマ帝国にサダナーを引き渡す役目のフランシテルの臣達に身を任せた。
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