一 サダナーは不遇な王子

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 割譲予定のポーラ地方の中央に位置する荒れ野にボテクリマの迎えの兵達が出て来ている。サダナーはフランシテルの、護衛と言うより見張りと言った方が的確と思える兵士達に取り巻かれ、自分の館から五日の旅程を経てボテクリマの兵士達の所まで来ていた。  館を出でてから、ずっと考えている事が有る。  それは、オメオメこのままボテクリマ帝国に人質として囚われの身となって良いものかという事である。 (我が逃亡すれば、フランシテルとボテクリマの講和は破れるやも知れぬ。そうで無くとも、フランスル王家は困った事になるであろう。しかし、そんな事知った事か。フランスル王家の者も、フランシテル国の民もこの身を王子として敬った事など無いではないか。それどころか、身分卑しき母を持つ妾腹の日陰者よと目引き耳引き軽侮を露わにしていたではないか。我がその者達の為に犠牲にならねばならぬ道理が何処にあろう。)  逃亡すれば必ず追っ手がかかり、命すら危うい事になるであろう。されど、このまま人質となれば、いつ何時殺されるかも分からぬ身となるのだ。所詮は同じ事、なれば。とサダナーは思わずにはいられないのである。  ボテクリマからの迎えの者達が進み出て来た。貴人用の馬車一台と周りを固める騎兵十名、フランシテル側の前まで来ると一同馬から降りてサダナーを迎える体勢を取った。  フランシテルの者がサダナーを運んで来た箱型の馬車の扉を開き、中からサダナーが静かに姿を現した。  儀礼用の衣に身を包み、頭にも儀礼用の烏帽子風の帽子を被り、腰に剣を一振り佩いている。
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