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馬を捨てて、木立に被われた道を進んでいるサダナーは生い茂った一本の木の根元で上を見上げて困った顔をしている少女を見掛けて一瞬立ち止まった。見ると木の枝に鞠が引っ掛かっている。何かの拍子に手の届かない場所に行ってしまった鞠をどうやって取ろうか困っているようだ。
サダナーはその場から去ろうとすぐに歩みを再開したが、少女と目が合ってしまった。俄然少女の目付きはある期待を帯びた輝きを放ってサダナーの視線に絡みついた。
何を期待されているのか一目瞭然であったが、サダナーは追われる身。こんな所で道草を食ってるわけには行かない。
さっさと少女の前を通り過ぎて二十歩以上歩いて行った。
しかし、そこで不意に立ち止まると、
「ちっ。」
と舌打ちして、踵を返して駈け戻って来た。そうして、その木に登ると鞠を枝から取って降り、少女に手渡した。
「これで、良いよな。」
一言言うと返事も待たず、そのまま又向きを戻して今度こそ歩き去って行った。
それからしばらくすると、同じ場所を今度は十数人の兵士達が足早に通って行った。思うに、サダナーに対して掛けられた追っ手に違いない。
せっかく逃げ出したのにもう追い付かれそうになっている様子で、少々気の毒な状態のようだ。
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