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部屋の中で携帯電話が鳴ると、花鳳は毛布で体を隠すと『誰から?』と起き上がって尋ねた。葉月は彼女の問いかけに『誰かなこんな時間に』と呟いてベッドから離れた。そして、黒い上着を掴むと携帯電話を手にして確認した。
「ああ、わかった。娘からだよ、ちょっといいかな」
「葉月さんの娘さんですか?」
「ああ、どうしたんだろうな美咲。私が帰って来ないから心配したんだよきっと――」
そう言って葉月は彼女に話すと電話に出た。
「美咲、どうした? 今日はパパは――」
『パパ、パパ! どうしよう、血が止まらないの!』
「えっ……!?」
電話越しで美咲が怯えたような声をだして、葉月に電話をかけてきた。普段とは違う、娘の怯えた様子に彼は電話の前でいきなり慌てた。
「大丈夫か美咲!? 血が止まらないって、どこか切ったのか!? 家政婦さんは家に居ないのか!?」
「知らない! 宮田さんならもう帰っちゃったよ! 私一人で家にいるけど怖いの! パパ帰ってきて!」
「美咲、ちょっと落ち着きなさい!」
「パパは美咲の事が嫌いなの!? お願い早く帰ってきてよ…――!」
突然の娘の言葉に葉月は動揺すると、そんな事無いぞと返事をした。電話越しで慌てる様子の彼に、花鳳は心配そうに見つめた。
「パパが美咲のことを嫌いなはずないだろ。とにかくわかったから、今から帰るよ…――!」
「ほっ、本当に……!? うん、わかった! パパ、私待ってるから早く帰ってきてね…――!?」
電話越しで美咲は突然、喜ぶと『パパ、私待ってるからはやく帰ってきてね!』と言って電話を切った。葉月は一瞬、違和感を感じた。さっきまで不安な声で助けを求めて来たのに、帰ると伝えた一瞬、娘は何故か喜んでいたようにも思えた。葉月は電話を手に持ちながら無言で首を傾げた。彼の様子に、花鳳はベッドから出ると後ろから抱きついた。
「ねぇ、どうしたの……? 葉月さん大丈夫?」
「ん…? ああ、大丈夫だ。娘がちょっと怪我をしたみたいなんだ。それが酷く慌ててね。花鳳、ゴメン。今日は帰るよ…――」
「そうですか……わかりました。美咲ちゃん酷い怪我じゃないと良いですね。私は大丈夫ですから、早く帰って安心させてあげて下さい」
花鳳は名残惜しそうに彼に話すと、背中に頭をトンとつけてぎゅと抱き締めた。葉月は後ろを振り向くと彼女の顎を指先で上に向けてキスをして抱き締めた。
「ごめん、花鳳……。今度穴埋めするよ。それに君に娘を会わせたいからな。美咲も新しいママが出来て、きっと喜ぶよ――」
「ええ、私も葉月さんの娘さんに会いたいです」
「ああ、そう言ってくれると嬉しいよ。美咲は良い子だからキミも気に入ると思うよ?」
「わかりました。じゃあ、今度3人で会いましょ?」
「ああ、そうしよう。それと今日はこのまま泊まっていくといいよ。ルーム代は、もう払ってあるから気にせずに泊まってくれ」
「葉月さん、わかりました。じゃあ、お言葉に甘えてそうしますね!」
花鳳は彼の前でクスッと無邪気に笑った。
「ん? どうしたんだい? 何かおかしかったか?」
「いいえ、違うのよ。貴方が私と泊まる気だったんだなって思って。葉月さんも可愛い所ありますね?」
「コラコラ、僕をからかわないでくれ。でも、半分は当たりかな?」
「葉月さん、指輪ありがとうございました……!」
「ああ、僕もキミからプロポーズを受け入れてもらえて嬉しかった……! 断られるんじゃないかと思ってたから…――」
「私が葉月さんのプロポーズを断るはず無いですよ。だって見ていたのは貴方だけじゃないんですよ。私も前に仕事で貴方の絵を見た時に感動したんですよ? こんな独創的な絵を描いてる人は、どんな人なんだろうなと思ってましたし、いつか会ってみたいなって思ってました。その人が偶然にも、私のコンサートに来てくれてたんなんて。私達運命を感じますね……」
「ああ、僕達を引き合わせたくれた神様に感謝しないとな…――」
「ええ……!」
二人は別れ際に愛を語ると、抱き締めあってキスをした。そして、葉月は後ろ髪を引かれる思いで彼女と別れると急いで家に帰宅した。
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