プロポーズ―軋み―

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――娘に呼び出されて急いで家に帰宅した。玄関には小さな灯りが灯っていた。鍵を開けて家の中に入ると家の中がシンと静まり返っていた。 「美咲、帰ったぞ。怪我したのか、大丈夫か?」  そう言って娘の名前を呼ぶと靴を脱いだ。玄関の前には二階に繋がる広い階段があった。そこから美咲が名前を呼んで駆け降りてきた。 「パパ! 葉月パパ……!」  娘は階段を駆け降りると無邪気に背中に飛び付いてきた。そして、怯えた声で名前を呼ぶと後ろから抱きついてきた。 「美咲…――?」 「パパ、酷いよ……! 美咲のこと一人きりにしないでよ! 一人きりで怖かったんだから…――!」 「ああ、すまん……。ちょっと遅くなった」 「そうなんだぁ。女の人?」 「え…――?」  美咲は抱きつたまま尋ねてきた。その表情が何だか大人びていた。一瞬、その顔にドキッとした。まるで妻に尋ねてられてるような気がした。 「……ああ、まぁ。そんな所だ」 「ふーん。葉月パパ、美咲が一番の恋人じゃなかったの?」 「コラコラ、大人をからかうんじゃないよ」  美咲は私の背中から抱きついたまま離れなかった。その妙な怪しげな雰囲気に前で息を呑んだ。美咲の手が自分の胸の辺りに移動すると心臓がドキッとした。 「うふふ。パパの心臓早い。ねぇ、何か隠してる?」 「――何だ、いきなり。まったく美咲は変な事を聞くなぁ。所で何処か怪我したのか?」  後ろを振り向くと、然り気無く手を振りほどいた。娘は私の顔をジッと見てくるとそこでニコっと笑ってきた。そして、人差し指を見せた。 「夕食作ってたら包丁で切ったの……」 「夕食? 宮田さんは作って行かなかったのか?」 「パパの好きな物作ったんだよ! ねぇ、一緒に食べよう!?」  美咲は私の話を遮ると腕を掴んでダイニングルームへと誘った。強引に腕を引っ張られると、その場から移動した。そして、廊下の前で立ち止まると娘に一言話した。 「美咲ちょっと待った…――!  手、見せなさい。パパが傷の状態を見てあげる。ついでに棚から救急箱を取っておいで。パパはリビングの方に行ってるよ」 「うん……!」  美咲は素直に私の話を聞くと部屋の奥から救急箱を取りに行った。リビングに入って娘を待っていると、救急箱を持って戻ってきた。ソファーに座るとこっちに来て座りなさいと言った。娘は私の前で嬉しそうに頷くと、隣でニコニコしながら座った。 「どれどれ、見せてごらん」 「ねぇ、パパ。これ傷あと残るかな?」  美咲の手を取ると右手の人差し指を確かめた。指にはピンクの絆創膏が貼られていた。確かに絆創膏には僅かに血が滲んでいた。 「痛かったら言うんだよ?」 「うん……!」  娘に一言声をかけると絆創膏を剥がして確かめた。人差し指の傷はパックリ割れていて、深く切れていた気がした。 「これは酷いな……! 傷が化膿する前に、ちゃんと消毒したのか?」 「うんん、してないよ。だってパパが見てくれると思って絆創膏だけ巻いたの」 「――あのなぁ。パパだって遅く帰る時くらいあるけど、こう言う時は一人でもちゃんと消毒しないと駄目だろ? それにお前も小さな子供じゃないんだから、自分の事は……」 『パパがいけないんだよ!? 美咲のことほっといたままずっと帰って来ないから!』 「ッ…――!?」  美咲はいきなり声を上げた。私は娘が、感情的になって怒鳴ってきた事に驚いた。まるで妻に怒られてるような気がした。 「あ、えっと……すまん。パパが悪かったな…――」  そう言って言葉を濁すと娘から瞳を反らした。
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