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妻の死。
――今から7年前。娘が7歳の頃、妻の奏美が自宅で転落死を遂げた。いつもと変わらない様子で家事をして、彼女は普段通りだった。私はその時、アトリエで普段通りに絵を描いていた。それは突然だった。窓の方から何かが落ちてきた鈍い音がした。不意に窓の方に目を向けると庭に彼女が血を流して倒れていた。
「奏美っ…――!?」
目の前の庭で彼女が血を流して倒れていると、私は描いていた絵と筆を投げ出してキャンバスが立掛けられたスタンドを倒したまま、慌てて庭に駆け寄った。
「奏美、奏美! 奏美、しっかりしろっ!!」
あまりの突然の出来事に頭がパニックになった。妻は一度も呼び掛けに反応する気配はなかった。彼女は頭から血を流したまま即死していた。その衝撃に私は言葉を失うと後ろに倒れて地面に両手をつくと呆然と目の前の出来事を見つめた。庭に奏美の亡骸が無惨にも横たわっている光景に言葉を失うと、頭を抱え込んだまま私は泣いた。そして、悲しみと共に絶望した。
どうして妻が? 一体、何故…――?
あまりにも無慈悲な出来事に私は神に問いかけた。ただ、いくら問いかけても神は返事をしなかった。
「パパ……?」
「美咲…――!?」
妻の急な死に取り乱していると、そこに娘が運悪く学校から帰ってきた。娘は背中にランドセルを背負ったまま呆然と母親の亡骸を見つめていた。私は咄嗟に娘の顔を手で覆うと慌てて言い放った。
「ダメだ、美咲! 見ちゃいけないっ!!」
「ねぇ、パパ……? ママはどうしちゃったの? 何で動かないの…――?」
腕の中で娘は震えると、泣きそうな顔で私に聞いてきた。幼い子供には衝撃的だった。血だらけの母親の亡骸を見て震えた声で指を指した。私はひたすら娘に『大丈夫、大丈夫だよ! ママは大丈夫だからね!』と、もう助からない事がわかっているのに。その場で嘘をついた。そして、その日の晴れた日に妻の奏美は急死した。
私と幼い娘の美咲を置いて、先に天国へ逝ってしまった。あの日の出来事は私の心の中で決して忘れずに、今も色褪せることもなく心の奥に刻まれて残っている。最後に最愛の妻に、たった一言『愛してる』と言う言葉すら彼女には届かずに――。
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