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父と娘。
妻が亡くなってからあれから、7年の月日があっという間に過ぎた。妻が去ったあの日から父と娘の二人して、二人三脚で助け合って生きてきた。娘の美咲は気立ての良い子に育った。素直で明るくて優しくて、父親思いの良い子で、私の自慢の娘になった。
美咲は年頃の少女みたいに綺麗になった。それこそランドセルを背負っていた子とは思えない。そして、近頃は亡くなった妻の奏美に面影が段々と似てきた。私でさえ、たまにドキッとしてしまうことが増えた。美咲は面影や、性格や、話し方が、妻に似ていた――。
「パパ、葉月パパ! ねぇ、見て見て! こないだのテスト100点とったんだよ!? 見て見て!」
「んー? ああ、お帰り美咲。今、ちょうど絵を描いてる所だから良く見えないんだ。近くに来て、見せてくれ」
「うん、いいよ!」
美咲は部屋に入ってくると両手にテストの回答用紙を持って近づいた。帰ってきたばかりだからセーラー服姿のままだった。長い黒髪に、あどけなさが残る瞳が見ていて可愛いらしかった。娘は近くで回答用紙を前に持つと私に自慢して見せてきた。
「どれどれ~? おお、すごいじゃないか美咲!? さすがパパとママの子だ! お前は賢いな!」
「うん、でしょでしょ!? 褒めて褒めて!」
「美咲は甘えん坊だな、よしよし!」
「エヘヘッ! もっと撫でて~!」
娘は嬉しそうな顔で喜ぶと甘えてきた。私は描いていた絵を途中で中断すると、娘の頭を撫でてヨシヨシして褒めた。娘は私の膝に頭を乗せると、頭を撫でられて気持ち良さそうな顔で目を閉じた。
「美咲頑張ったでしょ? 偉い?」
「ああ、偉い偉い。それじゃあ、100点をとったから御褒美で何か買ってあげようか。美咲、何か欲しい物でもあるかい?」
「ん~。それじゃあねぇ、パパとデートが良いな! 遊園地か映画館に行きたい!」
「ハハハッ。遊園地に映画館? まるで、恋人とのデートコースだな。そう言うのは恋人が出来てから、連れて行ってもらいなさい。パパ見たいなオジサンと一緒に並んで歩いてたら美咲が恥ずかしいだろ?」
「そんなこと無いよ!? パパはいつまでもハンサムだよ! 美咲の彼氏はパパだけだもん! ねぇ一緒にデートいいでしょ!?」
美咲は目の前で真っ直ぐな瞳で話すと、私の腕を掴んでグイグイと離さなかった。いきなり剥きになって言ってくると、その言葉に一瞬ドキッとして焦った。
「…そっ、そうだなぁ。じゃあ、たまには家族で一緒に遊園地でも行こうか? 仕事が忙しくて、暫くどこにも出掛けてないからな。たまには良いよな?」
「ホントにホント…――!? ありがとう葉月パパ! 世界中で大好き!」
美咲は嬉しそうな顔をすると、私の首に抱きついてきた。その仕草が何だか可愛いく思えた。
「ハハハッ、美咲は何でもオーバーだな。ほらパパは絵の仕事の続きをするから、お前は部屋に戻って着替えて着なさい」
「は~い♪ じゃあ、着替えてくるね?」
「ああ、そうだ。冷蔵庫にケーキがあるからおやつはケーキでも食べようか。パパは紅茶はアールグレイで頼む」
「うん、わかった! 着替えてくるから一緒にケーキ食べようね!?」
「ああ、そうだな――」
美咲は嬉しそうな顔で私から離れると、自分の部屋に戻って着替えに行った。娘が部屋から居なくなると持っていた筆と絵の具のパレットをテーブルに置いてふと溜め息をついた。
――私は正直、娘の接し方がわからなかった。幼い頃よりも随分と心も身体も大人へと成長した。それに今では年頃の娘みたいになった。見た目も美少女のように可愛いらしくて。そのせいか私は時おり、自分の娘にドキッとしたり戸惑う事も増えた。それが日に日に強く感じた。こんな時に妻がいればいいのにと不意に思った。どの家庭も娘を持つ父親は、こんな風に娘と接するのか、私自身がわからなかった。
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