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そこで不意に気がつくと、それを確かめる為に娘に帽子を見せてと頼んだ。
「なぁ、美咲。その帽子ちょっと見せてくれるか?」
「うん、いいよ!」
娘から帽子を手渡されると、そこで確かめた。よく見ると妻が昔、デートの時に被っていた帽子だった。それを手に持ったまま、娘の顔をジッと見つめた。
「あれ……? これもしかしてママの使ってた帽子か?」
娘の顔を見たまま、何気無く尋ねた。美咲は一瞬、視線を反らすとニコッと笑ってきた。
「うん、そうだよ――! このワンピースに合う帽子がないか探してたら、ママの部屋に良いのあったから勝手に被ってきちゃった! ダメだったかなぁ?」
美咲はそう言って返事をすると、目の前でくるりと無邪気に回って見せた。私はその言葉に口を閉ざすと黙ったまま、娘に目を奪われた。何故か目の前に妻が居るような妙な気持ちに襲われた。
「……そ、そうか。いや、駄目じゃないさ。ただママのを使う時は一言パパに言いなさい。この帽子だって無くしたら天国にいるママが悲しむからね。いいな、美咲?」
「うん、パパそうするね!」
そう言って娘の頭に再び帽子を被せた。美咲は帽子の端を両手で押さえると無邪気に笑ってきた。その、笑いかけてくる笑顔に妻の面影がちらついた。
呆然としたまま佇んでいると、娘が私の腕に自分の腕を絡ませて『葉月パパ、あれに乗ろうよ!』と言って誘ってきた。娘に腕を引っ張られながら歩きだすと妙な気持ちになりながらも、二人でその日は遊園地を満喫して楽しんだ。この気持ちが一体、何なのか。美咲を見るたびに妻の奏美を思い出した――。
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