最後の晩餐

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「……了解した。『枯らし熟成肉』で300グラムだな。肉屋のトーマスに言っておけば15時には持って来られるだろう。……他に何か要る物はあるかね?」  看守がメモを取りながら尋ねる。 「そうだな……」  シェフが冷蔵庫と香辛料の棚を開け、在庫を確認する。 「パスタ類はこの間まとめ買いしたし……ああ、そうだ。そんなに上等でなくていいから鶏のもも肉が少なくなったんで、1キロ……いや、500グラムほどでいいから欲しい。後はブラックペッパーが品薄なんで、小瓶を1つ手配してくれ。それと、バターだ。これはケチれないからブレス産の250グラムをひとつ……それくらいだな。まぁ、それは今日でなくていいが」 「分かった。『補充品』は通常の仕入れに混ぜて買っておくよ。それと、ビーンズスープの『豆』は買わなくていいのか? 最近は買った覚えがないけどな」  ペンを走らせながら看守が聞く。 「ああ、いい。それは缶詰を使うとしよう。何しろ予算が限られているんだろ? 例え1ドルでもいいから、その分の金を肉に回してやってくれ。少しでもいいメインを食わしてやりたい」    昔はともかくここ数年は『最後の晩餐』にも州政府から予算が決められている。仮に『オーダー』がこの刑務所に所属するコックの手に余って外部の料理人を呼ぶとしたら、その分の人件費も『予算の中』だ。  だからなるべく幅の広い『オーダー』に対応し、なおかつ質のいい料理を提供しようとするならば、シェフの腕を頼りにするのが一番なのだ。  看守が電話で購入品を伝えている間、シェフは厨房の掃除を始めた。ここはシェフが最後の晩餐用に使う専用の厨房なので、普段は締め切っている。なので、使う前にひとしきり埃を払ってやる必要があるのだ。 「……肉は2時間後に届くそうだ。後の補充品は明後日の便に載せるそうだから、私が取り分けてこっちの冷凍庫に入れておくよ」  看守がスマホをポケットに仕舞い込むと。 「バターは冷蔵庫でいいが、入荷したらオレを呼んでくれ。小さくカットしてラップに包んでから冷凍庫に入れておきたい。そうすれば長持ちするんでな。……何時でも使える」  背中越しに、シェフが応えた。 「はは、いつもながらなんだな」 「いい材料は無駄にしたくないだけだ。程度の悪いバターは脂で胸焼けを起こすが、上質なものにそんな事はない。それに味に甘味と厚みが増す。だからケチれないんだ」 シェフはそう呟きながら、掃除を続けた。
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