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華候焔は低く唸り、物憂げなため息をつく。
澗宇は華候焔にとっての特別。互いによく知っている相手だからこそ、最低限の護衛でここまで来たのかもしれない。
華候焔がいるならば傷つけられることはないだろう、という確信を澗宇は持っているのか。
二人の間にある特別さを感じて、胸の奥がずしりと重くなる。
だが華候焔は俺に誠意を見せてくれた。本気をぶつけたいとも言ってくれた。
俺たちの間にも特別は築かれているのだと思うと、うつむかずに前へ進める気がした。
「英正の頑張りを無駄にせぬよう、澗宇と話をしていかねば。すぐ支度して会いに行く。白澤、案内してくれ」
「はいー。貴賓室で待って頂いておりますので、どうぞお越し下さいー。ワタシは澗宇に誠人サマが会談したいことをお伝えしてきますー」
一礼代わりにクルリと空を縦に回ると、白澤はフワフワと浮かびながら部屋を出ていく。
バタンと扉が閉まってから、俺は華候焔を見た。
「すまないが、朝の戯れはここまでだ。今すぐ準備しなければ――」
「手伝おう。領主同士の会談なら正装したほうがいい」
ニヤリと笑ってから華候焔が俺の肩に手を置く。
「領主の格は気にするな。俺が誠人に仕え続けている……それだけで一目置かれる。言わなくても誠人なら大丈夫だと思うが、堂々としていればいい」
「……ありがとう、焔」
俺は華候焔の手に己の手を重ね、顔を綻ばせた。
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