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澗宇との対面
◇ ◇ ◇
いつもとは違う黒が基調の衣服をまとい、獅子の刺繍を施した帯を巻き、清楚な白の羽織に袖を通した俺は、華候焔を連れて貴賓室へと向かった。
扉の前に跪いて待機する英正の姿があり、俺は一瞬足を止める。
こちらに気づいた英正が俺を見る。目が合った瞬間、思わず駆け寄りたい衝動に襲われたが、すぐ隣の部屋には澗宇がいる。公の場である以上、素を出す訳にはいかない。
俺は静かに英正に近づき、肩に手を乗せた。
「英正、よく無事に帰って来てくれたな」
「……いえ、私はただ出向いただけに過ぎません」
もっと嬉々とした反応が返ってくるかと思ったが、英正の表情は冴えず、どこか苦々しそうに呟く。
何かあったのだろうかと心配していると、英正は息をついた後に貴賓室へ目配せした。
「今、才明殿と白澤様が澗宇様と話をされております。お食事がまだでしたら今の内に――」
「いや。わざわざ足を運んでくれたんだ。すぐ会うべきだ」
「分かりました。しばしお待ちを……」
英正は立ち上がり俺に一礼すると、どこか緊張した様子で「領主様がお越しになりました」と貴賓室へ声をかける。
間もなくして、キィィ……と扉が開き、才明が俺を出迎えた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
相変わらずのにこやかな糸目で感情が読めない顔だが、それでもいつもより雰囲気が固い。どうやら珍しく才明も緊張しているらしい。
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