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「僕自身は弱いですが、ここにいる侶普を始め、優秀な武将に恵まれて今もこうして領主でいることができています。そして、僕のために全力を注いでくれた人がいたから……」
澗宇の視線がわずかにズレる。すぐに誰を見ているのか分かり、俺の胸がわずかにざわつく。
フッ、と澗宇が柔らかな笑みを浮かべる。純粋な喜びに溢れた顔。特別を華候焔に送っているのが見て取れた。
「ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです、華候焔様」
「……ああ。お前も上手くやっているようで何よりだ」
背後からの華候焔の声がいつもより低く、抑揚が弱い。どこか遠慮というか、感情を抑えているような気がして俺は振り向く。
「近くに行かなくてもいいのか? 俺のことは気にしなくても――」
「けじめは大切だ。今の俺は澗宇の配下じゃない」
ぼそり、と俺だけに聞こえる声で華候焔が呟く。
こんなに気遣っている華候焔は初めてだと思っていると、澗宇は俺に視線を戻して背を正した。
「事情は英正さんや才明さんたちから伺っています。僕からの条件を呑んで下さるなら、喜んで誠人さんと同盟を結びたいと思います」
「条件とは?」
「誰にも話を聞かれないよう、完全に誠人さんと二人きりで話をさせて下さい。僕からの条件はそれだけです」
それだけでいいのか? と俺は思わず目を見張ってしまう。
何を言われたとしても、話をするだけで同盟が結べるのならば苦にならない。ただ、あまりにこちらへ有利な内容過ぎて、逆に身構えてしまう。
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