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すぐに決断できない俺をよそに、華候焔が澗宇へ話しかける。
「お互いに二人ずつ、という訳にはいかないのか? 心配し過ぎて侶普の胃に穴が開くぞ」
「それは困りますけど、どうしても二人だけで話をしたいんです。一応侶普の説得は終わっています。彼も渋々ですが承諾してくれました」
「渋々、か。俺にも聞かせたくないのか?」
「……はい。領主という立場を抜きにして、誠人さんとお話したくて……」
華候焔にも、忠臣にも聞かせたくないこととは?
少し考えてからふと考える。
俺も彼も負けを知らない、現実とこの世界を姿を変えずにそのまま行き来している存在。もしかすると澗宇が話したいことというのは――。
可能性に気付いた途端、俺の中から困惑は消えた。
「分かった、条件を呑もう。俺も個人的に澗宇と話をしたい」
俺が一歩前に出て気持ちを伝えると、澗宇の目の輝きが増す。
今にも瞳が潤んで涙を流しそうな目。意味のない戯れではなく、俺との対話を心底望んでいることが伝わってくる。しかも切実に。
いったいなぜなのだろうかと考えていると、華候焔からため息が聞こえてくる。
二人の間に漂う親しさと違和感。
澗宇に聞けば教えてくれるだろうか? と俺が考えているところで、才明がパンッと手を鳴らした。
「では静かに語らえるように準備致しました後、私たちは部屋を出ましょう。大声を出さない限りは外に聞こえませぬのでご安心下さい」
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