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「……はぁぁ、しょうがないなあ。水飲んで素面に戻ってやる」
頭をボリボリと掻きながら華候焔が、近くの盆に置かれていた水呑みに手を伸ばす。
酔いどれの暴走が落ち着いて何よりだと思っていると、才明が俺に近づいて耳打ちした。
「誠人様、もうしばらくしたら宴をお開きにしましょう」
「ああ、澗宇も移動で疲れているだろうから、あまり引き延ばさないほうが――」
「本日は英正を労ってあげて下さい。私と白澤殿とともに、酔いどれの華候焔殿の相手をしておきますから」
才明の気づかいに俺は口元を少しだけ緩めた。
「……ありがとう。今晩だけは我慢してもらえるか?」
「もちろんです。英正殿のおかげで、私のやりたいことができるのですから」
互いに視線を合わせて無言の了承を確かめ合った後、俺は部屋の隅にいる英正へ目を向ける。
今回の立役者だというのに、英正は控えたままだ。
きっとこちらから何か欲しいかと尋ねても、遠慮して答えてはくれないだろう。
言葉にせずとも英正の欲しいものは分かっている。
……頭では覚悟できていてもまだ心がついていかず、俺は後のことに向けて心の準備を進めていった。
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